ツイッターで、フォローさせてもらっている個人ゲーム制作者の方のツイートで知った、全編ドット絵で描かれた漫画「アイリ」を読みました。
物語は、両親の離婚を理由に、まともに生きることができなくな28歳の男が主人公です。彼には、まだ「まとも」だった高校時代、付き合っていた彼女がいました。
彼女の名がアイリ。しかし、アイリは突然、一家蒸発してしまいます。
音信不通となってしまってもなお、当時持っていたガラケーから、エラーメッセージが返ってくることを承知で、アイリにメールを送り続けるという、なかなかイタい行動をしています。
僕が思うに、彼をそうさせるのは、彼女への思慕もありますが、見失ってしまったかつての自分との繋がりがそこにあるかのような気がするのではないでしょうか。今の自分の状態との落差に、いつしかアイリの存在が、自分の都合の良い妄想なのではないか、と疑い、反面携帯に残された低解像度の彼女とのツーショット写真が動かぬ証拠として突きつけられ、今の自分を受け入れられない葛藤を感じているのです。
ある日、来ないはずの返信メールが、彼女用に設定した着メロとともに届きます。メールに添付されたリンクをクリックすると、そこにはアイリが……高校生の姿のままで。
ここまで読むと、「ああ、押しかけ女房系のラブコメなのかな」 という感じですが、当時好きだった女性が当時のままの可憐な姿(結婚出産とかしてないし、イメージ激変とかしてない)と再会するという下世話な嬉しさと、存在の不確かさ、ありえなさによる不気味さが混在して、ミステリタッチな描かれ方がされています。
この作品のドット絵表現は、ゲームのそれではなく、低解像度で小さかった、当時の携帯電話のディスプレイをフィーチャーしているようです。虚構と現実の堺が曖昧になってしまったかのような、夢心地の奇妙な感覚を覚える素敵な演出です。
黎明期のWEB漫画には、鉛筆ツールで描いたジャギった線の漫画が結構ありましたが、この漫画は、フルカラーのドット絵です。本来色数には制限がないはずなのに、少ないカラーパレットで、ハンチングを多用して、なめらかなグラデーション表現をしようとしています。手間を考えると、すごい作業量だと思います。
テキストアドベンチャーゲームだと、差分表現で基本となる立ち絵パターンがありますが、こちらは漫画なので、一コマごとに異なる絵で描かれ、なおのことリッチな気分になります。逆にいうと、そういうゲームっぽい演出をもっと取り入れても良いんじゃないかな、と思いました。
まだまだ序盤という感じなので、物語の行末を見守りたいです。
ちなみに、ILYは、アイラブユーの略らしい。