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ベオグラードメトロの子供たちの感想(後半ネタバレと主人公についての考察)

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セルビア共和国のベオグラードを舞台とした、SF+サイバーパンク+サスペンス+サイキックアクションのビジュアルノベル「ベオグラードメトロの子供たち」をプレイしてクリアしました。

マルチエンディングみたいですが、するっと一周しただけです。プレイ時間は七時間程度。結構ボリュームありますが、文章表現と演出が巧みなので、あっという間にエピソードが消化されていきます。

R-15指定なので、それなりの描写があります。成人パッチがあるらしいのですが、見つけられなかったので、そのまま遊びました(無念!)。

ラノベ感覚で取り掛かると痛い目をみます。人を選ぶかもしれませんけど、僕には凄く合ってました。痛快エンタメというよりも、ずっと文学的でした。かつて、内乱や紛争の絶えなかった複雑な土地柄なので、混乱と退廃した雰囲気があります。

主人公が、自分の過去を綴ったドキュメンタリー(映画用シナリオ)という体裁なので、僕が読んだ小説の中だと『悪童日記・三部作』や、『エブリシング・イズ・イルミネイテッド』なんかが好きだと、ハマるかもしれませんね。

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まず、ゲームとして、UIやイラストがとてもリッチで、スタイリッシュです。

 

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背景は、製作者本人がセルビアを旅して撮影したものが使用されているそうです。16色しか使えなかったころのゲーム風のグラフィックをしており、そのレトロな感じが、セルビアのベオグラードの異国情緒をたっぷり演出しております。このスタイルで、細かいカット割りやアニメーションが組み込まれているので、なおさらリッチに感じますよ。

 

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エピソード形式で、一話ごとに区切って読みすすめるのもいい感じです。

 

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いわゆるSS的な登場人物の会話劇ではなく、地の文もキチンとあり、テキストだけ抜き出してすぐに小説にできるくらいです。

 

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オレンジ色にハイライトされた語句は、個別に注釈がされており、異国の風俗や食文化などを知ることができます。

 

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選択肢はそれほど多くありませんが、個別にデザインされたUIが用意されていて、かなり豪華な印象を受けます。

 

ここからストーリーについて。

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舞台は、20XX年のセルビア・ベオグラード。能力者と呼ばれる超能力者が現れています。その男女比は、女性のほうが多く、強力な能力を持つ能力者が公然の秘密として社会進出し、結果社会は女尊男卑へと傾いています。女性の方が権力を握っているっていうことですね。

 

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ベオグラードには、資金難によって4度も開発中止となったまま放棄された地下鉄(メトロ)があり、その廃墟には能力者やホームレス、迫害され住む場所を失った人々の溜まり場となっていました。

 

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ベオグラードに引っ越して来た主人公のシズキは、そんな世界で超能力をもたない無能力者かつ男です。成り上がるには、大きなハンデを抱えています。ある日、彼はメトロで同年代の能力者と出会い、親交を得ることになります。そして、おそらく能力者が「自分より、それほど優れた存在ではない」ということを知ります。頭脳明晰な自分が、能力または能力者をもっと上手に活かすことができるってことを理解したのです。

 

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シズキは、劇中のベオグラードでもっとも権力を有している製薬会社ゴールデンドーンの令嬢・マリヤと出会い一目惚れします。強烈な女尊男卑思想をもつマリヤに近づくため、シズキは妹の名を借り女装をします。能力者は自社の所有物とするゴールデンドーンに近づいたシズキは、やがて能力者の謎に急接近し、ある計画を立てます。

 

……というのが話の流れです。

超強力な一企業による支配構造に、サイバーパンクみをかなり感じます。ドラッグとサイキックから、AKIRAが好きな人にも良いかもしれませんね。

 

 

---ここからネタバレ気味---

 

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最初の構想を知ると、このお話はシズキの成り上がりの物語だったようです。

参考:CODA公開にあたって&これからのプロジェクト - summertimeの日記

女尊男卑社会に進出するために性別を偽るお話だったのが、妹との関係性、好きな女性のために、という形に変化しています。これは、シズキの内面、自分の有り様へとテーマが移り変わったように感じますし、成功していると思いました。

 

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ベオグラードメトロという場所について、突拍子もない妄想をすると、僕はドラえもんに出てくる空き地を連想しました。空き地といっても絶対所有者がいて、なのに使用目的が決まってなくて空き地……だから誰でも使うことができる。子供たちはやがて大人になり、去っていく。

 

このゲームを起動すると、「このゲームに登場するすべてのキャラクターは18歳以上です」とクレジットされますが、公式サイトの人物紹介を見ると、むしろ18歳以上のキャラのほうが珍しいです。劇中●●●と伏せ字される語句の多くは年齢や、子供であることを隠しています。これはゲームを公開するに当たって、建前でやっているのでしょうか? 僕はかなりの皮肉が込められている気がしますね。

劇中でもフランスの大学でシズキが言っていたことですが、正しさの前に差別や悪態が無かったことにされてしまうということを上手く表現していると感じました。そういうことにしておけば、こういうことに煩い人間も黙るでしょ、っていう痛烈なメッセージと僕は受け取りました。

女尊男卑社会という舞台設定そのものが、皮肉めいています。正しくない行いを肯定しているわけじゃないです。正しいこと以外すべてを抹殺していけば、平等で幸福な社会がやってくるわけではない、ということです。そんなに単純な問題じゃないよってことです。言ってる事は正しい事なのに、やってることはいろいろ迷惑ってこと、最近たくさんありますよねぇ。

 

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シズキの能力者への憧れというのは、なんとなく自分も理解できます。非常に不謹慎なのですが、過去の僕の体験として、どこかで身体障害に憧れていました。もし僕の目が見えなかったら、四肢のどこかが欠けていたら、僕はもっと特別な存在として生きていられたのかもしれない……ハイ、胸糞悪いですねぇ。でもシズキの能力者への憧れってここに通じていると思うんですよ。五体満足だからこそ、「普通」から抜け出せない……なんて後ろ向きすぎる気持ちです。能力者なら、その存在だけで特別。シズキが小指を失うのも、ここに通じるんじゃないでしょうか。拷問によって失いますが、回避するのは簡単でした。心の中は偽ることができない。彼も望んでいた。妹への嫌悪も、女性であること=成功の証への嫉妬だったのかもしれません。あれだけ執着した彼女を殺してしまうのも、脚本家として自分の力で特別な存在になれそうだったからと思うと理解できる気がします。

 

この物語は、三人称視点ですが、シズキの回顧録なので、シズキが登場しないシーンは彼の創作なのか、後々知った事実ということになります。そのため、デシャンの最後の戦いは、彼の憶測でしかありません。しかし、彼女のトリガーがペンダントだ、と見抜いた時から、デシャンとの関係をなんとなく見抜いていたのではないでしょうか。おそらく、二人の仕草や、攻撃の感じから……。そして、親友でもあるデシャンの性格上、ああゆう最後になってしまうのも予測できたのではないでしょうか……恐ろしいことに。自分のクソさに嫌になってしまうね。

でも、シズキがマリヤに見出された本当の理由ってそこだと思うんです。無能力者でありながら、ときに能力者すら出し抜き、コントロールしてしまう賢しさ。おそらくマリヤは、経済的にも精神的にもシズキに劣等感を抱いていて欲しかった。そうして依存させて支配して、母親が失脚したあとも、シズキがパートナーとして側にいてくれれば、もう一度返り咲けると思っていたのではないでしょうか。もちろん、もっと複雑な感情が入り乱れてるんでしょうけど。

 

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僕のエンディングは、ネデルカのその後でした。脚本として本来決まったラストへと向かう物語が、現実の時間軸に戻り、最後のオチ探しとして向かう先を選び、マルチエンディングとなる結末は、臨場感たっぷりに感じました。どこでネデルカのフラグが立ったのかわかんないけど……。蕾を結んだばかりの花を手折るような、ちょっと淫卑なラストで、罪悪感も入り交じる人間失格なラストシーンでした。シズキに優しすぎないか、みんな……。

今回は主人公に焦点を当てたので、また感想書くかもしれません。他のキャラもかなり興味深いです。デシャンのその後とかも知りたいので、もう一週したいですね。

公式サイト:Children of Belgrade Metro

 

ベオグラードメトロの子供たちはPC版がスチームで、Mac版が公式サイトにて販売されています。

 

 

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