フローレンスは、現在の不満、家族との関係性、孤独、恋のきらめき、失恋の喪失感、夢への昇華といった、人が普遍的に抱える要素を、回りくどいセリフなしに、タッチ操作(PC版ではマウスカーソルのクリック&ドラッグ)で三十分程度の短い時間に、直感的に体験することのできる稀有なゲームです。
発売当初より話題になっていましたが、まわりの評価に違わず素晴らしいゲームでした。
以下ネタバレ注意。
主人公フローレンス・ヨーの日常は、共感を感じずにはいられない、普通の人そのもの。
SNSのイイねを無感動にタップ。
小うるさい母からの電話……選択肢をみるかぎり、フローレンスは中国系の女性のようです。セリフらしいセリフはここくらい。アジア人を主人公にしているって、なかなか珍しいですね。
フローレンスの過去へ。
お母さんは教育ママだったようです。バタフライスープでも描かれますが、今の中国の受験戦争熱ってすごいらしいですね。お母さんはシングルマザーっぽいので、娘に苦労させたくない……なーんて気持ちもあったのかもしれません。
フローレンスは勉強よりもアート方面に興味があったようです。
しかし、母親の意思に歯向かうことはなく、敷かれたレールを疑問に思うことなく学校を卒業し、就職したようです。
25歳になって、親が敷いた幸せになる道が、そうでもなかったと気づくフローレンス。
そんな時、彼女はチェロ弾きのクリシュに出会います。彼も有色人種で、ダイバーシティ的に意識した作品となっています。
このシーン、次に進むのを少しためらって、音楽に耳を傾けじーんとなってしまいました。
二人は再会し、デートをすることになります。吹き出しを使ったパズルでフローレンスがクリシュとの距離感がどんどん縮んでいくことを表現しているところが良かったです。
こうして二人は恋人同士となるのですが、会社員のフローレンスと楽器弾きのクリシュ、それぞれお互いが持っていないものを補完しあって、高めあっていく理想の関係が描かれます。
しかし、自分も完璧な人間ではなく、パートナーには良いところと悪いところがあります。ふとした口論によって、行き違う二人。
このシーンでは、パズルを組み合わせても、最終的に二人のピースは噛み合いません。現実の恋愛のように、万事うまくいくということはなく、別れたとしても人生は続いていく……。
こうして、フローレンスはクリシュと別れたあとも、クリシュとの間に培ったものを昇華して、封印していたアートの道に進みます。
やがて母との一方的な確執も解消しました。母が娘を心配する気持ちを理解できたのでしょう。人生で何一つ無駄なことはないんだよ、って言ってもらえるような体験でした。