ワカンダ・フォーエバー!!!
前作主演男優の予期せぬ死去により、大きなシナリオ変更を余儀なくされた続編となります。その余波は大きく、物語を軌道にのせるため、上映時間は増大。けっして無駄のない完璧な映画ではありませんが、それでもより良いものにしようとした涙ぐましい努力が感じられました。関わったスタッフの強い想いの感じられる映画でした。
ブラックパンサーは、ヒーロー映画であると同時に、苦難の過去をもつ人種のムーブメントでした。綺麗事かもしれませんが、身勝手な人間の業がもたらした禍根を断ち切るため、物語が示したテーマは素晴らしいものだったと感じております。
ただ、エンタメ映画としては、非常に重苦しいものだったため、その点、スカッと楽しい映画を期待していた人には評価が厳しいものに感じるのも否めないと感じました。
映画冒頭、前作の主人公であるワカンダ国王のティ・チャラ/ブラックパンサーが病気により死去してしまいます。現実の俳優の死去により彼は映画において、過去映像以外には登場しません。現実的問題なので、難しかったとは思いますが、違和感が半端なく、彼の死の整合性をなんとか保とうとすればするほど、映画が空中崩壊しかけているような居心地の悪さを感じます。
ワカンダ驚異のテクノロジーと自身の腕に絶対の自信を抱いていた王の妹シュリは、兄の死を受け入れることができず、悲嘆に暮れることになります。
一方、世界情勢は、ワカンダの守護者であるブラックパンサーを欠いた混乱に乗じ、国際協力という建前を盾にして、ヴィブラニウムというワカンダにしか存在しないとされる超鉱物(キャプテン・アメリカの盾などの材料)の国外持ち出しを要求。裏では軍事目的の利用、自国の台頭を狙います。
この主張を行う国が、どうしてアメリカとフランスなのかはわかりませんが、白人の国がやってきた過去を揶揄していることは、なんとなく理解できます。
しかし、むやみに黒人と白人の対立構造を煽っているようにも感じられ(わかりやすくするため、2つの国家の人物が全員白人で構成されていたこととか)、国際会議の場で、ヴィブラニウム強奪秘密作戦に参加した白人兵士達を跪かせて屈服させるようなことを見て、気持ちがスカッとしますか? そんなしょうもないことが貴方の望みですか? とメチャクチャ悲しい気持ちになりました。
重すぎる物語の始まりに、ほとんど確信に近い印象で、「この映画は失敗だ」 なんて頭を抱えそうになりました。前王の存在が素晴らしい人と映画で語られる度に、その王を演じた俳優は、そこまで人格者じゃなかったみたいね。なぜなら、自分がキャストを降ろされないために、自分の病気を隠していたんでしょう? それって残された次回作のこと考えなかった、スタッフのこと信頼してなかったってことじゃん……亡くなった人を悪く言うのは良くないかもしれないけどさ……などと、筋違いの批判めいた感情が巻き起こってしまいました。
今回の敵対勢力が出てからが、この映画は盛り返してきます。
最初、アバターかな? なんて思っちゃったんですが、ネイモア/ククルカンを王とするタロカン族は、かつてスペインの征服者(コンキスタドール)によって、国を追われた南米の民族です。今度はアジア系民族なので、白人をそんなに悪者にしたいのね、と当初はとても落胆しました。
ところが、同じ苦難の歴史を持つ2つの部族がぶつかり合う構図になってくると、気持ちが変わってきます。
ククルカンは、映画上はヴィラン(悪役)ですが、その主義主張には一貫したものがあります。立場を変えれば、ヒーローです。まだ未熟で迷える女王シュリの先をゆく、優れた指導者であり、二人は陣営が違えど似たもの同士であり、深くつながっています。
ではこの映画の真の悪とはなにか? それは人間の他者を蹴落とし、自分たちだけが利を得るという身勝手な欲望や、復讐が復讐を呼ぶ負の連鎖、綿々と受け継がれる人の業そのものです。
この映画でもっとも評価したポイントは、その人の業が、白人だけを悪者にしたのではなく、黒人や黄色人種も、その立場になれば同じような過ちを犯したかもしれないという可能性を示唆したことです。
シュリがブラックパンサーになったとき、ティ・チャラ王を登場できないという現実上の問題を逆手にとって、前作のヴィランにして悲劇の叔父キルモンガーを登場させます。そして、手に取ったブラックパンサーのマスクは、兄ブラックパンサーの銀、キルモンガーの金があしらわれ、兄の意志か、叔父の業を背負うのか、揺れるシュリの心が表現されています。
マーベル映画の中で、もっとも社会的テーマを盛り込んだ意欲作と感じました。
ただ、上映時間は冗長だし、重々しい話なので、素直に面白かったとはいえませんでした。でも、とても重要な話と思いました。主義主張が強いので、反発感も出る人も多そう。
アイアンマンを継ぎそうなキャラクターも登場。なんか次のアベンジャーズ、黒人と女性ばかりになりそうですね……ま、それはいいんですけど、そこまでやるならアジア系も出して欲しい。
やはりLGBT要素を意地でも入れてくる……。
ブラックパンサー以外のスーツのデザインは微妙にかっこ悪い。オコエのセンスを僕は支持。
エヴェレット・K・ロス(CIA捜査官)がランニングしているシーンで、レッド・ホット・チリ・ペッパーズの楽曲が流れたのは、ブラックミュージック(ファンク、ヒップホップ)要素を取り入れた白人バンドだからかなー(政治姿勢もLGBTや少数民族などマイノリティの権利保護に関心強いみたい)。彼は民族間を超越した橋渡し的存在だったんでしょうね。
吹替版特有の不満点で、ファンには申し訳ないのですが、アイドルがシュリを演じており、一際甲高いキラキラボイスに強い違和感を感じました。棒読みセリフではありませんし、演技が下手でもないのですが、周囲のトーンに合ってない。前作は出番がすくなく、まだ良かったんですが、これも前作主演男優逝去の影響とは思いますが、シュリが主人公となり、出番が多くなって、悪目立ちしていました。
ククルカンにアフターバーナーで不意打ちするさいの「ワカンダ・フォーエバー!」 のキャピキャピボイスに、腰が砕けるかと思いました。