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SEASON: A letter to the future-開始30分で傑作を予感させる工夫

偉大な作品に触れた。

Seasonは、2015年にモントリオールで設立された独立系のゲーム開発会社、スカベンジャーズスタジオによる、リアルな雰囲気を重視した三人称視点のロードトリップ・アドベンチャーゲームです。

デモ版が公開されるやいなや、かなりの注目作となった本作ですが、前評判通り……いやそれ以上の作りの良さを感じます。

独特な世界観を持ちながら、同時に奇をてらわない馴染み深さを感じます。初めてSeasonの世界に触れるプレイヤーを没入させる工夫に満ちています。インディーズタイトルとして自社の開発規模で注力すべきところがわかってます。プレイヤーにしっかり見せるところ、隠すところが絶妙であり、しかも隠したことでそれ以上の味わいを演出しています。画作り、演出面において、センスの塊のような作品です。

冒頭30分で、あまりにも勉強になったので、その時点でもファーストインプレッションとしての感想記事となります。酷評してしまった某ゲームの冒頭シーンとの格差を感じてもらえればと思います。これが出来ていれば、文句なかったんですよ、あのゲームは……。

物語の始まり、白衣を着た黒人女性が本を読んでいます。

この本を書いたのが主人公であり、まるで海に瓶詰めの手紙を流すように、誰が読むともしれない日記を残したようです。日記を読む体裁で、過去へと戻って行く流れとなります。

 

主人公もまた黒人女性です。この時点では、例の過激派による、はた迷惑キャンペーンのせいで、こういったポリコレ要素の脳髄反射的な忌避感がありましたが、すぐに解消してしまいます。ディズニーなどのポリコレ要素ってやっぱり元の企業への嫌悪感から由来するのかもしれません。作品が好きになってしまえば、必要性を感じなくてもなんも感じない。むしろ、サンタン肌のベリーショートメガネ女性が主人公なんて僕の趣味的に最高じゃないですか(記事投稿時のブログのヘッダーを見れば一目瞭然)!

 

やや比喩的な表現によって、時代の移り変わり(季節)と、世界の終わりが訪れるという舞台背景が語られます。

この、陳腐で素っ頓狂な響きの「世界の終わり」 というのは、実際地球が滅亡するという話だけではなくて、プレイヤー次第の想像に任せる部分があります。世界というのは、キャラクターが認識している範囲のことであり、限界集落である村がもう存続できなくなるとか、戦争で負けて国が解体してしまうとか、パンデミックでめちゃくちゃになったとか、金融破綻で混乱してるとか……そういうこととして理解することができます。これがシーズン、季節が変わるということなんだと思います。詩的かつ、想像の余地のある舞台設定だと思いました。

 

そんな世界の終わりを迎える村から出ることを許された主人公は、生存する唯一の肉親である母との別れ、旅立ちの日を迎えることになります。

この世界、現実世界風に見えますが、実は魔術? 呪術? みたいな不思議パワーも存在しています。

まず最初にすることは、旅の無事を願って、お守りのネックレスを作ることです。

このタリスマン作りには、旅立つ者と見送る者の思い出の詰まった品々が必要となります。思い出の品を対価にすることで、旅立つ者は守護を得ますが、見送る者がその品にまつわる記憶を失うことになります。とても切ないシーンです。人が死んじゃったね、悲しいねみたいな短絡的なお涙頂戴シーンを乱発しがちなシナリオライターさんは参考にされるとよろしいと思います。

 

思い出の品は、この家の至るところに存在し、お守りに必要とする5つ以上あります。この家にある小道具全てに、ちゃんとしたエピソードがあり、雰囲気つくりの背景という感じではないです。必要最低限用意された舞台という感じではなく、人が何十年も生きた歴史が折り重なったという実感がそこにはあるのです。

 

プレイヤーは、その数分前にこの世界の主人公に乗り移りました。まったく、この家にも母親にも愛着なんて、それまで存在しませんでした。

しかし、このお守り作りを通して母親に強い愛着と切なさを感じます。思い出が消えてもと二人を繋ぐ絆の品を犠牲にし、主人公の旅の無事を願う母親の気持ちが胸に刺さります。この心の動きは劇的です。お守り作りなんて、ゲーム的には全然おもしろくないです。かったるいとすら思います。でも、実に感動的なんですよ。

 

ストーリーの区切りごとに、日記を書いていきます。

写真やイラストなどは自由に配置することができ、自分だけの日記帳を作っていきます。この日記がやがて、オープニングの白衣の女性に渡るのでしょう。プレイヤー自身が、滅びゆく世界の生き証人として、後の人々に伝えようとするのが、ゲームの主旨となるのです。

 

家を出ると、日記を充実した内容にするため、録音したり、写真を撮ったりできるチュートリアルが開始されます。

本来チュートリアルというのは、説明口調になってしまって、必要とは言え、あまり面白くない要素となりますが、本作の場合、もう二度と帰ってこれない故郷の思い出を収集するとなれば、熱のいりようは変わってきます。

気になる場所で、写真を撮ったり、録音すると、主人公がモノローグで来歴などを説明してくれます。

そうそう、このゲームは字幕が日本語化されているだけでなく、吹き替えもされています! 翻訳のクオリティも高く感じます。定価が3000円程度のタイトルなのに!  この時点で倍のプライスでも安いのでは? なんて思いました。

 

街を散策していると、不思議なことに村人一人もいません。

村と、主人公の家族は折り合い悪かったのかしら? でも親友はいるみたいだし……変なの……と歩いていると、広場には宴会後の様子がありました。

この瞬間、ゲーム中では描かれていない昨夜の出来事が想像できます。

 

きっと昨夜はこの村総出で、主人公を送り出す宴会が夜を徹して行われたんですよ。そして、その場で「明日は見送りしない。湿っぽくなるからさ」 なんて会話があったに違いないです。みんな、家の中で二日酔いで寝込んでいるか、窓の隙間から主人公の旅立ちを見送ってるんだろうな、なんて妄想ができます。

これって、めちゃくちゃすごいことで、律儀に村人が登場していたら、開発工数が膨らみます。村人それぞれの見た目、モーション、反応も作らねば。風景になるだけの棒立ちじゃ如何にも手抜きですよね(とりあえず作りましたみたいな、そういうゲームは多いですよね!)。

このゲームは、住人たちを描かないけど、たしかに存在している、ということを想像させることで、別のところに開発リソースを集中させることに成功しているんですよ。

AAAタイトルと言っても、海外制作の超弩級予算のゲームのように、何でもかんでも完璧に作り込むということが不可能な、日本の大作ゲームこそ、こういう姿勢を学ぶべきなんですよ!

 

こうして、主人公は故郷を後にします。

故郷に後ろ髪引かれる感情、新しい世界へ飛び出す興奮がごちゃまぜになった、完璧な旅立ちの描き方です。

こんなふうに、センスよく丁寧に作られたゲームが、日本からもたくさん生まれることを切に願います!

 

本タイトルは、現在はPC版・PS5と4のみのリリースのようですが、翻訳に力が入ってることからも、順次コンシューマ機でも展開されると思います。めちゃくちゃおすすめです!!

 

 

 

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