ソフビそのものについて、僕の浅い知識と独断と偏見でアレコレ勝手に語る、ソフビ雑記のコーナーです。
今回のテーマは、「レトロさ」。ソフビを見ると、なんだか懐かしい気持ちになりますよね。あの感情ってどこから来ているんでしょうか。
「いや、何を言っているんだ、お前は。ソフビは半世紀以上前にあるもの。実際レトロなんだよ」 って突っ込まれそうなんですけど……いや、僕もそう思っていたんですけど、その懐かしさって、ソフビという素材ではなくて、あのずんぐりむっくりとしたカタチのスタイルから由来していると思うんです。あのスタイルって、どこから来たんだろう……って考えていました。
ネットの記事を参照にすると、国産ソフビ第一号は戦後アメリカから入ってきたバービー人形を、何とか国産化したいという考えから生まれたようです。ただし、成形方法は輸入されなかったため、セルロイド金型技術を応用してみようということで作ったのが、割型と呼ばれる真鍮の金型によって成形されたもののようです。
ただし、この割型による成形では、2つの型の合わせ目で、線がでてしまいます。そこで銅電気鋳造による金型製作法、いわゆるスラッシュ成形が採用されることになりました。
あのずんぐりむっくりな独特のスタイルは、モチーフと成形方法の2つが影響しているように考えています。
1つ目がモチーフ。バービー人形は、大人の女性ですが、おそらくソフビっておままごと用の子供(赤ちゃん)がモデルになっていることが多かったと思うんです。キューピー人形とか。ああいう頭が大きくて、手足が短いモチーフが、ソフビでよく作られた。
そして、そういう頭が大きくて、手足が短いカタチが、実はスラッシュ成形に適していました。
どういうことかというと、元ネタはまたSTUDIO24さんの動画を拝聴していて。スラッシュ成形というのは、材料のゾルを湯口から流し込み、薄く固めて、湯口から引き抜くことで成形します。
この湯口の大きさに対して、パーツの断面積……太さが決まっています。蛇口の大きさ以上の量の水は一度に出ないということです。ソフビの成形した厚み分しか、湯口から抜けないということですね。
この場合、10頭身のキャラは、首が細いので、あまりボリュームのある髪のキャラクターは抜くことができませんし、細い首から胴体を抜くことができません。腰で分割して、そこから抜けばできますが、分割を増やすと製造費に返ってきます。
子供の場合、頭部が大きくても、首が太い・省略できるので、大きく湯口をとることができ、都合が良いという訳です。
また、手足の短さも同じです。ソフビは長く細いものが抜きにくいし、動画で言われているように千切れるリスクもあります。子供の短く太い手足は、中空面積が多く、そのリスクが低減できるのです。
腰の股の部分の開きも同じです。お尻の小さな女の子は、分割するとつくれないんですね。このように、ソフビ成形上の制約が、子供というモチーフに合っていたんですね。
この動画で、僕が感動したのは、あのソフビの独特のスタイルが、当時の原型師の優れたセンスから偶発的に生まれたものではなく、成形方法の特性により、ノウハウとして蓄積され、当然のごとく帰結した美しいカタチであるということなんです。
当然、そのノウハウは、子供以外のモチーフにも転用されました。ヒーロー、ロボット、怪獣たちが、あのスタイルなのは、そういう理由があるからではないでしょうか。
そこで、これからのソフビについて、僕が思い馳せることは、この制約を超えることで生まれるソフビたちについてです。作家さんの熱意や、技術革新などによって、「ソフビとして抜きやすい」という観点から脱却した作品も、すでに生まれていると思うんです。
それは、とてもさじ加減の難しいところです。やりすぎれば、ソフビならではの良さを殺してしまうことになります。「レトロさ」は、ソフビの大きな魅力です。何も考えずに作りたいカタチを作った、のではなく、わかっててあえて挑戦したんだ、って思えるような作品に出会えると良いな、って思っています。
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