ネタバレ無し(前巻のネタバレはあり)の感想はこちら
前作からボリュームアップしたものの、ゆったりとしたスペースで始まった第二部「三体II暗黒森林」。
下巻は、前半からは予想できない急展開に次ぐ急展開をして、ページをめくるスピードも早くなってしまいました。この結末に興奮しています。
以下、ネタバレありです。
三体II暗黒森林は、中国では三部作の中で1番人気のエピソードのようです。中国の現状と小説の中を、穿った見方かもしれませんが、結びつけて考えてしまうな。上巻の感想で書きましたが、ニュースなどで伝わるトンデモ中国というのは、一部の話、曲解された話で、本当の中国というのは案外僕にも理解できる普通の国なのかもしれないと思いました。
智子という陽子を改造したスーパーコンピュータは、陽子と同じサイズなため、人類が感知できないスーパースパイ衛星であり、人類が三体文明と戦うための素粒子の研究結果をむちゃくちゃにしてしまいます。
人類は三体人と抗するため、智子の監視の目をかいくぐって、来たる4百年後、三体艦隊と勝利・または和睦の謀略を巡らします。そのための計画が、四人の面壁者を立て、智子が探知できない個人の脳の中だけで対三体艦隊戦略を練るというものでした。
「人の心の中だけは自由」というのは、インターネットが規制され、統制国家の気配を強める現代中国の現状を暗喩しているような気がします。
四人の面壁者は、防衛省長官や著名な科学者、革命家に加えて、一人の特に実績を持たない元天文学者で社会学の大学教授が選ばれます。ちなみに四人とも男性なので、現実世界でこの四人が面壁者となったら、フェミニストは黙ってなさそうです。実際、本の批判としてあるみたいです。映画化されたら、人種でも揉めそう。
今作の主人公である元天文学者で社会学の大学教授の
結婚まで考えていた小説家のパートナーから、作家の才能とおそらく自分が彼の欠けたピースでないことを悟ってなのか、理想のヒロインを創作させます。次第に彼は想像のヒロインにのめり込んで行き、恋人との関係は破綻、以後来る者・去る者拒まず……というクソ野郎になります。正直、この時点ではぜんぜん彼に共感できません。
そんな彼が、前作の黒幕である葉文潔からの指南もあり、四人の面壁者となります。その後の彼のストーリーは、めちゃくちゃ数奇かつ哀れです。
今回のエピソードで僕の中で1番心を揺さぶられたのは、人類の狭量さです。他人の幸運を羨み妬み、不幸を被るのは人類全体でなければ納得できない。
救世主として担ぎ上げられた四人の面壁者の運命は悲惨極まります。身勝手かつ無力の振りをする群衆によって、一瞬は担ぎあげ、一瞬で恨まれる。
三体艦隊との戦争は人類が圧倒的に不利。そのなかで、人類の存亡をかけるために地球から脱出をはかる逃亡主義が発生しますが、誰がその方舟に乗るのかで、人類は争います。地獄へ行くなら全員で! まったく愚かだけど、それが人類!!
水滴という三体文明の兵器が登場します。三体文明にとって水というのは、とても重要な要素。そんな形をした物体とのファーストコンタクトは、どんな意味があるのか、凄い緊張感を持っていました。地球艦隊との凄惨極まる宇宙戦……そこからミスリードでしたが、ルオ・ジーへ向かう水滴の描写。約2世紀をかけた壮大過ぎる執念の狙撃……この構図に身震いしました。ルオ・ジーがあまりにも哀れで可哀相で、涙しそうでした。最初は、嫌いなキャラだったのにね(笑)。
暗黒森林というサブタイトルが鮮やかに回収されます。解説でも、これを実際の世界と照らし合わせるのは幼稚と言っていますが、一方で匿名性のあるSNSなどで起こる状況が、この仮説のヒントになったのは明白です。一歩踏み込んで、もしかすると現代中国の望みも、外の何者かに現状を変化してもらいたいのかもしれません……。
個人的に、前巻の方が目新しさを感じて面白かったです。三体問題、智子、VRゲーム三体……。
今作はやはり導入が長すぎるように感じました。端折ると後半の高まりが減じてしまうかもしれませんが……。前巻の文革の部分が読みにくいという意見があったので、同じような批判かもしれません。
三体は、最終巻の死神永生が2021年に翻訳版発売予定。今作よりさらにボリュームアップし、テンションも変わらないようなので、とても楽しみです。