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エイリアン:ロムルスの感想‐シリーズ予習なしでも面白い。超一流の脚本

今週のお題「大人になってから克服したもの」

SFホラー映画の金字塔として有名はエイリアンシリーズですが、近年もスピンオフや別系統の新シリーズ開始などの展開をしています。残念ながら評価や興行成績的が今ひとつという感じのようです。

初代エイリアンと2の間の独立した作品として公開されたエイリアン:ロムルスの評価がとても良いことを知り、急遽見てきました。丁度月曜日でハッピーマンデーで1100円だったのもラッキー!

恥ずかしながら、僕のエイリアンの履修状況は、エイリアンVSプレデターくらいです。

ワンシーンを金曜ロードショーでチラチラ見たくらいかな……。

最近のマーベル映画で慣らしていたので、鑑賞前にYouTubeで過去作の予習をかるくしましたが、必要がないくらい素晴らしい映画でした。もちろん、シリーズファンなら、もっと楽しめるでしょうが、「なんか宇宙の怖いやつ」 くらいの認識で全然オーケーでした。欲をいうなら、エイリアンとプロメテウスの2作を視聴して、設定を覚えておくと良いかもしれません。


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自分は、映画のジャンプスケア展開(ホラー映画やコンピュータゲームでよく用いられる、観客を驚かせ恐がらせることを意図して主に大きな恐ろしい音と共に画像(映像)や出来事を突然変化させるテクニック)が苦手で、卑怯さを感じてしまうのですが、本作では伏線はった展開運びが巧妙で、騙し討ちによる怒りよりも、鮮やかにやられてしまった! と喝采してしまうほどでした。

素晴らしい舞台と脚本で脱帽ものでした。

今年見た映画で現状ナンバーワン。

人生で見た映画の中でも上位にランクインすると思います。

以下若干のネタバレを含みます。

 

ペース配分が良い。ホラーをジェットコースターに例えるなら、最初の恐怖シーンまでの貯めの部分、その部分は舞台やキャラクター紹介をじっくりやってくれます。

技術が進歩して人間はもっと豊かに、労働の必要がなくなるはずなのに、逆に企業に隷属されてディストピア化した社会を、映画のかなりの尺を使ってたっぷりと描写します。

 

1979年公開のエイリアン当時が思い描いたレトロフューチャーな宇宙工学による電子機器の小道具がカッコいい。退屈さを感じることなく、食い入るように見ていました。こんな悲惨な世界なのに、主人公レインの歯がピカピカにホワイトニングされているのは、ちょっと興ざめでしたが、細かすぎるかな……。

フェイスハガーが登場してからは、怒涛の展開。巧みに緩急をつけて、マシンガンのようにホラーシーンが出てきます。何度も席から腰を浮かして、思わず「ウッ!!」 と声が漏れてしまい、恥ずかしくて周囲を見渡してしまいました……。

 

前半に丁寧に描かれていた要素が、後半の伏線になります。

アンドロイドのアンディの親父ギャグ、暴力へのパニック障害。宇宙船の貨物室のフック。宇宙ステーションの無重力と重力の発生。

何度も「これで終わりだな」 と思わせて、精神を安静にさせておいての継続する恐怖シーン。冒頭のあのシーンが、ここに繋がるのか! と驚き。きっと次回作の布石だな、なんて思っていた要素を、もったいがらずに今回で全力投球・完全燃焼させてしまう心意気に痺れました。

 

H・R・ギーガーによる映画史に永遠に残るアイコニックなクリーチャー達は、CGではなく当時のようにアニマトロニクス撮影(生物を模したロボットを使って撮影するSFX技術)していて、懐古厨歓喜もの。

ゼノモーフの体液が酸というのが、宇宙ではここまで凶悪とは思ってなかったです。結構簡単に倒せるじゃん、と軽く思ってました……。宇宙の建造物ってそこまで酸に弱いのかな、とはちょっとツッコミどころでしたが。

 

キャラクター描写や配役も素晴らしかったです。

登場人物の数が少なく、密度の高いドラマに感じられました。

白人多めの配役の中、アンドロイドのアンディが黒人配役なのは意味深に感じました。社会的メッセージを感じた。

僕個人の考えでは、人種差別・障害者差別とアンドロイド差別をクロスオーバーさせているのではないでしょうか。

一方で、ポリコレ活動家に批判されないように、一番辛く当たっていた従兄弟のビヨンの恋人パイロットのナヴァロはアジア系になっていて、あくまでも劇中ではアンドロイドへの差別という体裁で描写しています。

 

ビヨンのアンドロイドへの不信感の理由を明確にしていますし、一方で主人公のレインがアンディをユヴァーガ第三惑星への移住へ連れていけないことを黙っています。ビヨンとレイン、どちらが残酷なのか、ちょっと考えさせられます。

劇中、アンディはアップグレードされて、命令を書き換えられて能力がアップします。とても不気味で、主人公サイドに感情移入していたら敵といえるのですが、どこか「ザマァ」展開的なカタルシスがありました。

 

先の展開が全然読めませんでした。

どうしてレインがアンディを助けに戻ったのかというと、伏線は冒頭のアンディを一人にした時にリンチにあってしまったシーンです。暴力によっとパニック障害のようになり、震えて動けなくなります。ゼノモーフに囲まれた時も同じようになっています。

ソフトウェアが書き換えられ、別人になったように見えたアンディの中に、この時、元の朴訥としたレインの知るアンディを見たのでしょう。

 

フェイスハガーによって、6割がた卵が植え付けられたであろうパイロットのナヴァロを見捨てられず、暴走してしまったビヨンと、そのままアンディを見捨てればおそらく妊婦のケイが一人で子供を守れるか不安になってブラックタールの投与することもなく生き残れたかもしれません。アンドロイド的価値観からすると、まったくの無駄と言える行動が、人間性・人間らしさと感じられて、感動的でした。

 

最後にタイトルについてですが、劇中にあるとおりロムルスとはローマ帝国の建国王で、劇中では宇宙ステーションの名称として使われています。伝説ではロムルスはレムスと双子の兄弟で、狼によって育てられたと言われています。

この伝承の大事な部分は、人が狼に、と異種族によって育てられたというところです。

劇中でも、人からブラックタールによってエイリアンが誕生しますが、あれがロムルスとすると、レムスもいるのではないか、双子だったのではないか。

続編への布石はまったくないように思えて、実はあるんじゃないだろうか。

 

 

 

過去の映画感想

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