漫画ブルージャイアント(無印)の東京編に登場する若きジャズピアニスト沢辺雪祈視点の小説です。同時期に発表された劇場映画版のブルージャイアント準拠のキャラクター性(雪祈のクズ男っぷりがややマイルド)とストーリー展開をみせつつ、雪祈の幼少期のエピソードにより、よりキャラクター解像度が増して、重厚な物語が楽しめる、とても良い小説に思いました。
オーディブルで読みました。朗読した声優さんの技量が高く、各登場人物のセリフがそれぞれ別人物としてしっかり聴き分けることができ、とても良かったです。
著者はいつからか漫画版にもクレジットされたNumber8さん。南波永人(なんば えいと)と文字ってます。漫画の巻末漫画を読むと、たぶん元担当編集者だったのかな?
神童だった幼少期、良かれと思った大人達の導きにより失われてしまう才能の儚さ。それも今の自分を構成するかけがえのないものだったというのは、素晴らしい到達に感じました。左手のエピソードも良かった。
上京してジャズトリオのジャスを結成してからは、劇場映画のノベライズバージョンというか原作なのでは、という内容です。活字らしく情報量については映画の比ではなく、細々としてディテールが、漫画の内容も補完してくれます。あの時の雪祈の心情はこうだったのか、玉田めちゃくちゃ頑張ってるとか、客とこんなに交流してたのか、とか。性格のひん曲がった僕には、音楽を美化しずぎている点、かっこつけすぎている点も(漫画同様)見受けられ、鼻をつく部分もありましたが、テンションが最後まで高く、何度も涙ぐむ。
ここから重大なネタバレになります。
章の間には、漫画巻末のボーナス・トラックと同じく、インタビューが挿入されて、とても良い演出になっていると感じました。
雪祈がピアノを好きになる原因となったアオイちゃんだけ、名字がないのは、沢辺性になる可能性を残したから?
最後のインタビューは、主人公の宮本大。目次を読んですごくテンション上がりました。だって、インタビューを受けているのは、みんな大成したあと。世界一のジャズプレイヤーとなった宮本大が現れるんだ! と。
しかし……、インタビューを読んで、さっきまで雪祈の物語を読んで感動していた心の青い炎がフッと消えてしまいました。
漫画のインタビューって、世界一のジャズプレイヤーとなった宮本大本人に語られず、周辺人物の言動で、読者に想像させるようにしているんです。漫画や小説では聞こえてこない、彼らの音楽を想像するように。
インタビューに出てきた宮本大は……なんかめちゃくちゃ普通で、インタビュー用に良いセリフをちゃんと用意してきましたよ的で。
まだ連載中の漫画ブルージャイアントでも、宮本大はこうなっていくのか、と思うと、この最後のインタビューは、蛇足も蛇足と感じてしまい、この部分だけが残念でした。
最後のインタビューは、「サックスプレイヤーで、元ジャスメンバーの宮本大との対談を予定していましたが、インタビュイー(インタビュー受ける側のこと。明日から使おう!)多忙のため、実現しませんでした。楽しみにしてくださった皆様に深くお詫び申し上げます」 くらいのほうが良かった……。これはこれで、小説としては良くないかもしれないが……。