自己承認欲求モンスターの新しい犠牲者についての時事ネタです。
回転寿司でイタズラをして、SNSで人気者になろうとした少年が、軽はずみな行動によって大きな罪を背負うことになってしまった事件が世間を賑わせています。
最初に断っておくと、少年に対して毛ほども擁護も弁護もするつもりはなく、当事者同士の話し合いによって、責任をしっかり償って欲しいだけです。
しかし、引っかかるのは、同じくSNS上で、彼に厳罰を求め怒り狂う人々です。
自分は連中が怖いのです。
有史以来の世界的ベストセラーに登場する、髭面の救世主のエピソードを紹介しましょう。
メシアが神の教えを広めん、と各地を放浪していると、貼り付けになった咎人に対して、石打ちの刑を執行する街の人を目にします。
メシアは「コレコレ、街の者よ、刑の執行は偉大なる神の法のもと行わなければならぬ」 と言います。
街の人が投石をやめないと、メシアは「では、これまでの人生で、何一つ罪を犯さなかったもののみ、咎人への投石を許そう」 と言いました。
その後は、咎人に唯一投石し続けるメシアの姿がありました。
この逸話を聞いた時、めちゃくちゃシュールだな、と僕は思いました。
おそらく話としては、人間は同じ人間を裁くことはできない、という教えなんでしょう。
無宗教の僕には、結構ひどい話に思います。他にもちゃんとした解釈があるのかもしれませんけど、メシアは一方的に刑を執行される咎人の言い分を聞いて、大岡越前するつもりもなく、ただ神の法に従っていない一点のみを悔い改めるつもりだったという、なんとも人情味がないエピソードに自分は感じられます。
同時に、自分に一点の汚点もない完全な正義と信じ切ってる人間は、余人の目には恐ろしく映るものです。
世間には、自身を絶対的正義と信じる過激なフェミニスト、ヴィーガン、自然保護活動者、ポリコレ主義者なんかがいますけど、ちょっと通じる部分を感じます。
インドでは、性犯罪者と勘違いして、全く無関係の人間を集団リンチして殺害せしめるという事件がありました。その集団はSNS上で集められたということで、暴走する正義とはまさしくこのこと、と思ったものです。
スシペロー少年を絶対許さんマンの皆さんは、私は利口なのでこんな馬鹿な真似は絶対しないと思っているのかもしれません。おそらく、明日は我が身かもしれん、警戒しようという考えの人は少ないかもしれません。
しかし、僕はそれでも明日は我が身なのだと思ってます。
自身がやらなくても、自分の、貴方の周囲の人間がやらない、とは絶対言い切れないです。
スシペロー少年の周りでもそうです。
親は「どういう育て方してたんだ!」 って追求されるでしょう。もしかしたら、職場では閑職へと追い込まれ、居づらくなって辞めることになるかもしれません。兄弟姉妹がいた場合はどうでしょう。学校では級友との関係はぶっ壊れ、孤立。決まっていた進学や就職が取り消され、将来掴みかけていた夢が霧散。通っていた学校の先生は「どういう教育していたんだ!」 って追求され。学校の評判はガタ落ち。少年と話したことのない別学年の生徒、OBたちにまで被害は波及していきます。
彼に直接、間接的に関わった人間が、彼との関係性を絶とうとして、別天地へ逃れたとしても、いつ何時その秘密が白日の下に晒されかわかりません。以前の生活とはまったく違った、灰色の人生があるような気がします。その点では、少年に強い怒りを、周囲の人間には憐憫を感じてしまいます。
そんな立場に、あなたが絶対ならないという保証はどこにもない訳です。いつあなたの預かりしらないところで、あなたの家族が、あなたの友達の家族が、職場の部下が、学校の下級生が、同じような愚かな行為を犯すと知れないのです。
もうSNSの道徳教育は十分行き渡ってるから、安心なんて言えないのです。いつ新しいメディアが生まれるかわからんのです。最初の一人になる可能性は、誰にでも平等にあるんです。おーこわ。
仮にですよ。
SNS上の袋叩きに、ついに自責の念に耐えきれなくなってしまった少年が、最悪の責任の取り方をしてしまった場合(本当にそうなってしまった時、自分が書いてしまったことでそうなったとか言われないような卑怯なぼかし)、親族が納得することができずに「SNS上の心無いコメントがなければこんなことにはならなかった」 として訴えた場合……もちろん、これが罪に問われるとは思えませんが……やはり別の正義マンが現れて、一点の汚点もない完全な正義と信じ、あなたを叩きます。きっとあなたはそんな面倒事に巻き込まれないように、しれっと自分のツイートを消して、そもそも悪いのは、この件を拡散したインフルエンサーじゃねぇの? なんて言うんじゃないですか????
少年、そんな訳で、そういう責任の取り方をしても意味はない。
君は、自分がやった行為の責任に真摯に向き合って、罪を償うんだ。
この教えに悔い改めたものよ……
もし僕が炎上してしまったら……
救いの手を差し伸べるのです……