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JUNKHEADの感想と考察

ネタバレ注意

ほぼ一人の人間が、独学ではじめ、七年の歳月をかけてストップモーションアニメによる長編映画です。あのギレルモ・デル・トロ監督が賛辞を贈るなどして、注目されました。

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Amazonプライム・ビデオで視聴できたので、今回見てみました。「一人に人間が独学で七年かけて作った」 という部分ばかりがクローズアップされてしまっていますが、散りばめられた伏線が回収され、怒涛の展開をみせるに連れて、めちゃくちゃ面白いじゃないか、とびっくりしました。

正直、この映画はとっつきにくい点があります。

まず、ビジュアル面において、あまりキャッチーではないです。見ようによってはキモカワかもしれませんが、かなりキモ寄りです。

ストップモーションアニメという、マペットを微妙に動かして一コマ一コマ撮影するという気の遠くなるような手間のかかる撮影方法を採用しています。独学ゆえなのか、自分が過去に見てきたストップモーションアニメの繊細さを、JUNKHEADには感じられず、まだまだ荒々しいと感じました。これは製作者の気質によるところも多い気がします。唯一無二の作風と言い換えてもいいかもしれませんが、自分がストップモーションアニメに対する魅力は、この作品には感じなかったな。

荒廃した地下の風景が代わり映えしない感じで、こういう雰囲気が好きでないと飽きてきてしまうと思いました。自分はかなり好きな雰囲気でした。

 

自分が特に感銘を受けたのはストーリーです。

人類は、マリガンと呼ばれる人口生命体を生み出し、労働を肩代わりさせます。しかし、マリガンが反乱を起こして戦争状態になります。やがて和平を結びますが、今度は不死となった人類が生殖能力を失ってしまいます。地下で人類と袂を分かつマリガンに、人類存続のヒントがあるのではないか、というのがあらすじとなります。

 

人類とマリガンという人口生命体の構図は、技術特異点を経たAIやロボットが暴走したみたいなSFによくある構図です。しかし、JUNKHEADの世界では戦争はすでに終結しているばかりか、人類はすでに滅んでいます。滅んでいる……と僕は断定します。頭部だけ切り離して、義体化し、生殖能力を持たない人類を、当事者たちは認めないかもしれませんが、過去に人類という種族がいた痕跡でしかないと感じました。

この世界の人類は、文化としても衰退しています。生殖能力を失い、性差というものが形骸化しているにもかかわらず、男性的女性的な格好をして、女性は男性にしなだれて、色香を振りまき、男性は地下世界へと冒険にくりだして度胸をアピールしているのです。新しい時代に適応しようとせず、もう戻ってこない過去の残滓にすがりついているのです。

 

対して、人間と異なる生態をもつマリガンの文化は独自の発展を遂げています。生命の木という方式で生殖するため、女性の方が立場が上の場合もあります。あれ? この描写をフェミニストの人たちは、男女が平等じゃないって抗議しないの? ーーという風に、一種のアイロニーとして捉えることができます。

 

マリガンたちの食料もおもしろい。人口生命体マリガンが食料のようで、これをカニバリズム的とおぞましいと考えるか。しかし、我々が口にするものも、起源をたどれば、同じ単細胞生物なわけでして、マリガンとやっていることは同じです。肉だろうと野菜だろうと、人間が勝手な線引しているだけでしかないことに気付かされます。

 

地底への調査に志願した主人公ですが、地下への旅は危険で、何度も破壊と再生を繰り返します。不死化したはずの人間が死んで、記憶を失い生まれ直しを繰り返す。神話の原型でも地下は死者の世界なので、そういうイメージがあったのかもしれません。地上は神の世界で、死がないかわりに変化のない終わりのない世界だったんでしょう。

 

主人公が、火を守っているおばあさんに親切心で椅子を作ってあげます。この親切心が仇となり、地下の区画が崩壊して、3人の黒いハンターのうち二人が死んでしまいます。バタフライエフェクトのような展開でしたが、フィクションの主人公のやることなすこと全部が良い方向へいってしまうことへのカウンターのようでした。

 

この黒いハンターなんですが、正直3人の必要性はないですよね。前述のとおりストップモーションアニメってすごく手間のかかる作成方法で、おそらく三人のマペットは一つで、3回分撮影してあとから合成しているのだと思いますが、それなら二人のほうが手間が減ります。だとしたら、3人にする意味が何かしらあるのだと思います。三位一体とか。……個人的に思ったのは、ノルン三姉妹的に3人が過去、現在、未来を象徴していて、過去と現在が死んでしまった。残されたのは未来だけ。しかし、未来の彼は主人公と分かれてしまった。未来はもう見通せない……うーん、あまりにもこじつけすぎか。すげーカッコいい名前が明かされて、面白かったですね。

 

シリーズは三部作で、JUNKHEADはスターウォーズ形式で中の二部にあたるみたいです。

制作状況がどんな感じなのかわからないですが、公開が楽しみです。