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十三機兵防衛圏Switch版のクリア後感想-3年間のモラトリアムがバカバカしくなるくらい傑作だった

十三機兵防衛圏は発売元アトラス、開発ヴァニラウェアのアドベンチャー+リアルタイムストラテジーゲームで、PS4版が2019年11月に発売、Switch版が2022年4月に発売した。

ずっとプレイしたかった本作だが、世間の評判に違わず、素晴らしい作品だった。

各パート100%達成(バトルの4面は手つかず)で総プレイ時間は25時間と50時間と聞いていたボリュームからは半分程度だったが、それでもアドベンチャーゲームとしては大ボリュームと言って過言ではなく、複雑怪奇に入り組んだ構造と人類存亡にまつわる壮大な謎、まばゆく輝く胸キュンキュンのボーイ・ミーツ・ガール、心躍るジェブナイル、サイエンスフィクションのフルコースと絢爛華麗の大傑作だったと思う。

絵面が地味で、ちょっと不安だったリアルタイムストラテジーパートも、少数VS大群を相手とする消耗戦の絶望感と、戦略兵器を使って一網打尽にする爽快感があり、とても良かった。

アドベンチャーパートとリアルタイムストラテジーパートを完全に分離するという試みも良かった。難しい局面でゲームを投げることなく、最後まで(クリアするのが惜しいくらい)楽しく、本来記事もファーストインプレッションとクリア後感想で二回に分けようと思っていたが、購入から3日で一気にクリアしてしまった。

ここからは一部ネタバレも含むので注意されたし。

僕と十三機兵防衛圏の関係※読み飛ばし可

2015年に開発が本格的に始まり、当初2018年にPS4版とPSVITA版の発売が予定されていたが、開発が長期化したという経緯があり、後にVITA版の開発が中止。

どのタイミングで、本作のちゃんとしたPVが流れたか記憶が定かではないが、僕はその映像表現と題材に「一目惚れ」してしまった(パンを咥えていたかは覚えていない)。

絶対買うぞ、と心に誓って、発売を待ち望んでいた。

 

しかし、正式発売のたった約一ヶ月を前にして、十三機兵防衛圏 プロローグという名の有料体験版が発売され、そのファンを食い物にするような汚いビジネスのやり方に憤慨して、「ああ、ついにアトラスお得意の完全版商法に飽き足らず、有料体験版商法まで手を染めたか。開発が長期化して、費用をガチファンから回収する腹積もりね。これは今作も完全版出るわな」 と考え、泣く泣くスルーを決めた。

発売したPS4版の評価は非常に高く口コミで売れて、物理ディスクが品切れを起こすという近年あまり見ないような売れ方をした。その加熱っぷりを、悔しい思いで見守るしかなかった。

そんな忸怩たる思いを抱えながら、設定資料集を購入して読まずに放置して、Switch版の発売を待ち望んでいた。

 

smoglog.hatenablog.com

 

十三機兵防衛圏Switch版が完全版かどうかは、有料DLC全部入りな点を鑑みれば、そのとおりなのだろう。その他の点では、追加ストーリーなどは含まれないようなので、ペルソナシリーズのような感じではない。PS4版では、一部処理落ちなどがあったようだが、Switch版では自分のプレイ中はなかった点も改善点といえるだろう。

 

 

さて、プロローグ発売から3年のモラトリアムを設けた本作だったが、ゲーム本編の各パート100%達成、設定資料集を読了した今、本当に満足している。深い余韻が残り、未だにあの世界に捕らわれ、戻りたい、もっとすごしていたかった、という気持ちだ。

有料体験版の不快感から誤解していたが、よくぞこんな面倒な作りのゲームを完成させたものである。

設定資料集やインタビュー記事を参照にすると、本作の構想は恐ろしく壮大にして複雑である。

僕は昔、ブログの中で、Switch版がペルソナの完全版のように追加要素マシマシの完全版になるんでしょ、と書いたことがあるが、コメントで「それは難しい」 と反論頂いたことがあったが、僕は勝手に完成度が高いんだな、と思っていた。

それは誤解であった。十三機兵防衛圏は傑作であることは間違いないが、完璧とは程遠い。もっと追加してほしい要素・エピソードや改善してほしい点もあるが、あまりに緻密で複雑ゆえに、うかつに追加要素をくわえると、物語全体が破綻しかねないのだ。

 

開発の長期化が深刻化して、一時は主人公が13人から8人にカットされそうになること、スケジュールの都合でその場あわせでシナリオを変更をくわえて、よくぞ空中分解せずに完成にこぎつけることができたと思う。

ゲーム制作は、見通しのしにくいもので、制作していたパーツが組み上がって実際にちゃんと動くのは、制作時期の末期に一気に出来上がるという感じらしい。

個人的に否定していた有料体験版が発売した時も、正式リリース一ヶ月後というタイミングで、ほとんどのルートが完成してなかったというし、プロローグの反応をみて変化した部分も多いという。正直、裏事情の苦労話なんてユーザーにとって知ったこっちゃないわい、と言いたいし、ゲーム制作のデス・パレードの悲劇はFF15ないしアンセム等枚挙なく、褒められた職場環境とは言えないだろう。とは言え、開発者の苦労とアトラスのサポートと我慢強さがなければ、十三機兵防衛圏は今の形になってなかっただろう。ちゃんと売れて良かった。

 

ゲーム概要

本ゲームはスーパーロボットものの熱い展開と、少女漫画の青春胸キュンラブストーリーをかけ合わせ、クリストファー・ノーラン監督のメメントのような順不同タイムラインに基づき、十三人の別々の視点の群像劇から、人類存亡の謎を解明するという、非常に壮大な物語である。

数々の記念碑的SF作品からの設定の引用やオマージュが散りばめられているので、このジャンルについての教養と素養が必須である。時系列もバラバラ、時代や舞台もバラバラ、同じ顔なのに違う人物、別の顔なのに同じ人物などが登場するため、つねに頭をフル回転させておく必要がある。

ヴァニラウェアといえば、近年では美麗な2Dグラフィックスのアクションゲームなので、その点で、人を選ぶゲームであることはまず間違いない。

 

ゲームは、最終戦闘の前日譚に位置し今日までに至る軌跡と謎を探究するアドベンチャーパート追想編、最終戦闘の数時間を一気にまとめたバトルパート崩壊編、アドベンチャーパートでは分断されて全体像をつかみにくいタイムラインをまとめ、登場人物やキーアイテムの詳細をまとめたアーカイブパートの究明編の3つに分けられており、好きなタイミングで各パートを横断できる。

 

ごついネタバレがあったのでモザイクしておく(なんでよりにもよってキャラ選択画面をこれしかスクショしていないのか)

ただし、アドベンチャーパートもバトルパートも進行度によってロックがかかる場合があり、ロック解除には他のパートのプレイ進行を要求される。

これによってある程度、プレイヤーのシナリオ理解度に制限を加えることになるが、ロック解除の順番によっては、誤解を招いたり、キャラの印象が違ってくるなど、シナリオは完全に一本道なのに、体験が異なってくる点が面白い。

バトルパートで手に入れるミステリーポイントで、アーカイブのキーワードを読み解くことが可能となっている。

全てが補完関係になっていて、物語の全容を知るには、全てのパートを網羅して精査する必要がある。

 

アドベンチャーパート

アドベンチャーパートは、2Dによる、これぞヴァニラウェアの真骨頂! とも言えるもので、光のエフェクトが美しい背景、生き生きとしたキャラクターアニメーションは、信じられないくらい凝っていて素晴らしい。どのシーンもビジュアルだけで感情が揺さぶられる。

 

ミワちゃんは可愛いよ……

 

アドベンチャーパートを進行するフラグとして作用するシステムがクラウドシンクと言うもので、これは会話中のキーワードをアイテム化したもので、このキーワードを相手に投げかけることで話が進展したり、アイテムを使用したりすることができる。

キャラエピソードが飛び飛びになってしまうため、話のわかりにくさに拍車をかけているが、クラウドシンクを読み直すと、思い出せるようになっている。このシステムで、話の振り返りもできるという、素晴らしいアイディア。

もっと発展が可能な気もする。

実際、構想ではキーワードを合成するということもあったらしい。ただし、今作は話が複雑にからみ合う関係で、ルート分岐してしまうと辻褄合わせが不可能になってしまうため、お蔵入りとなってしまった。

本作の直接の続編は、制作が大変すぎて不可能としているが、13ルートを同期させるから大変なのであって、主人公一人で発展したクラウドシンクを使ったアドベンチャーゲームなら、可能ではないだろうか。

 

設定資料集によると、アドベンチャーパートもリアルタイム制を採用したシステムを考えていたようだ。

エピソードが始まると、会話イベントが同時進行的にはじまり、どの会話にプレイヤーが介入するかで、ルート変化が起こるというものだ。

一部にその名残りがある。たしかに構想自体は面白いが、13ルートでそれをやられると、プレイヤーも何回ループしなおさなければならず、介入タイミングまで辛抱強く待たなければならない。今の形になって良かったと思う。

 

各パートは視覚的にルート管理がされていて、とても便利。

シナリオの取りこぼしはほぼない構造で、セリフも短くまとめられていて、サクサク進む。

 

バッグログなど、基本的昨日が完備されている。ビジュアルノベルに比べると文字数はすくないが、逐一アニメーションするため、とてもリッチな作り。アニメーションは違和感ないように、手仕事で調整されているらしく、その膨大な作業量に脱帽だ。

 

バトルパート

戦闘パートは、簡略されたグラフィックを用いたリアルタイムストラテジーで、攻撃参加が最大6ユニットの味方に対して、百を超える圧倒的物量の敵が、拠点に押し寄せてくる。

制限時間内か、敵を殲滅することでステージクリア。

自機である機兵は、強力な範囲兵装を備えているため、うまくひとまとめに誘導して、一網打尽にしよう。

通常、シュミレーションゲームというと、シナリオパート→ブリーフィングパート→バトルパート→繰り返し……という流れであるが、本作では最終戦闘の連続戦闘が連続して続く、危機的状況である。機兵は連続戦闘が不可能であり、13ユニットを交互に出撃させることでローテーションさせていく。

 

バトルパートの戦闘開始前にも会話があり、ここでしか明かされない話もある。

東雲パイセン関連の話があまり理解できていない……。彼女、なんで機兵に乗ろうとしたんだろ。

 

地味な印象のバトルパートだが、機兵起動のカットシーンだけは用意されている。難易度ノーマルではあまり使うシーンが無かったが、エロ……美麗なので、ちゃんと見よう。

特典の鞍部の部屋のアニメーションまとめにも、なぜか起動アニメーションは収録されていないんだよな(ゆえにより特別と思える)。

 

これも設定資料集で言及されているが、機兵の武装アニメーションもあるので、カットシーンをバトルに採用してほしかった。画像が小さいなら、ホロ画像のように乱れた風のフィルターかければ良いのにな。開発が大変すぎて、燃え尽きてしまったのかもしれない。

 

バトルパートは十分面白かったが、もっと作り込めたような気がする。

やりこみ要素としてクリア後開放されるステージ4があるのは、良いと思ったが、僕はバトルパートは100%にするだけで十分、お腹いっぱいだった。

最終戦闘というシナリオ背景もあったと思うが、もっと爽快感マシマシで、機体強化がどんどんでき、それこそヴァンパイアサバイバーみたいなより物量マシマシで爽快感と中毒性のある感じにもできたと思う。

 

4世代ある機兵や兵装の使い分け、強化、運用など、もう少し局面によって使えてる感を演出してほしかったし、ラストバトルもエモいシチュエーションが作れたように思う。

機体能力強化はほぼ手つかずに終わってしまった。

 

アーカイブパート

ぶつ切り、順不同の物語の断片を時間軸にそって並べ、キーワードを収めたミステリーファイルを閲覧できる。

地味だけどすごく便利。

 

 

※ネタバレありシナリオについて

制作の長期化によって二転三転、ボツになったり、残ってしまったりしたことが色々あるようだ。

写真の緒方憲吾もその一人で、本作では存在感があまりなかったけど、本来はきちんとしたエピソードがあったようだ。だいぶ黒幕感あったのにな。

ただ、今のシナリオには不満がなく、構想されたものが具現化されていたら、まったく別物になっていたと思う。

 

本作は、人類滅亡に際して、種の保存のために選ばれた15人の少年少女の物語である。

この15人は、愛憎による各人の思惑による偶然が重なり、膨大な年月をループして翻弄されてしまう。

そこで語られるのは、同じDNAを持ったクローンであっても、違う人生、違う趣味嗜好があり、それと同時に変わらぬ想いがあるということである。それはどちらも尊い。

比治山と沖田が、何度生まれ変わろうとも惹かれ合うこと、自分のオリジナルを殺した相手のクローンに一目惚れしてしまうこと、自分の娘の遺伝子を持つ子と親友になること、オリジナルは最低野郎だけど、クローン体は何かいいヤツなこと……これらは全部人間って素晴らしいなぁ! って思わせてくれる。

 

 

特にエンディングは、近年のゲームでは類をみないくらい感情を揺さぶられるものであった。誰が悲劇の原因で、誰が黒幕だ、と断ずることもできるが、登場人物がちゃんと着地できたことがなにより喜ばしい。

そして、15人を乗せた探査船は、全宇宙で自己増殖して拡散している。プレイヤーが見たのはその一例にすぎない。このゲームのシナリオにおいて、不満があれば、その数限りないパターンを想像すれば良いと思った。きっと別の船では、君の思い描いた通りのカップリングや結末を迎えているはずだ。

 

本作で一番好きなキャラは圧倒的強キャラ感を出していた芝くんだ。女の子は……選べん! マジで選べん!

個人的に追加要素で、因幡美雪の新曲追加してほしかった。

バトルシーンとエンディングで流れる曲……良すぎだろ……。