smogbom

蒐集/レビュー/散財。アートトイ,ThreeA,ソフビ,民藝。ウルトラライトハイキング。Giant MR4r。Apple,Mac,iPhone。

竜とそばかすの姫のネタバレ感想と考察

f:id:smoglog:20210726001800j:plain

細田守監督の最新作。

細田監督の作品は、時をかける少女、サマーウォーズ、おおかみこどもの雨と雪を見たことがありますが、実は劇場に足を運ぶほど熱心なファンではないです。

オリジナルの脚本で、長編劇場アニメをコンスタントに発表することは、とてもすごいことだと思いますが、どこか軽薄な感じがするんですよねぇ。

この3つの中だと、サマーウォーズが一番好きで、今回の映画は、舞台的にちょっと似てるところがありますし、ミレニアムパレードが楽曲提供してたので、気になって見て来ました。

 

以下、ゴリゴリのネタバレです。

 

予告編を見た感じ、美女と野獣をモチーフにして、美女のほうも偽りの姿なので、「ありの~ままの~姿見せるのよ~♫」 ってやるのかなぁ、と思ってたら、まさしくそのとおりでした。

 


www.youtube.com

 

それにくわえて、テクノロジーの素晴らしい部分と最悪な部分が重要なテーマとして語られています。

 

たとえば、主人公のすずのように、田舎者で特別容姿にすぐれておらず、人前に出るのが得意でなく、経済的にも特別優遇されていなくても、才能に恵まれていれば、一夜にしてスターになることができます。ツールもプロモーションもフリー、発表する場所もあります。昔のように、我の強い人間が、ギターだけ背負って東京へ向かうみたいなのが、スターダムへのし上がる唯一の方法ではなくなりました。

広い世界の中で、ネットにつながっていれば、誰か価値観を共有できる人間とつながることができる。これもテクノロジーの素晴らしい点ですよね。

 

逆に、見ず知らずの子供を助け、命を落すような善行すら、いわれなき批判をうけるようなことは、インターネットの影の部分といえそうです。勝手な憶測で決めつけられ、自分の知らないところで、嘘が拡散されてしまうことも。足のない犬を飼ってるなんて、SNSにアップしたら、偽善者扱いしてくるやつ、絶対いるよな。ジャスティスという仕切り屋集団がいるのは、どんな狭い界隈でも一緒ですね。フォロー外からのメンションはよくないとか、一言断らんとフォローできないとか、そんなマナー知らんわ。

 

そんな便利だけど、使い方を間違えると難しいテクノロジーとして、仮想現実世界『U』を舞台に、お話は展開します。

 

現実世界は、通常の2Dアニメ、UのシーンはフルCGに使い分けてあります。特にUのシーンは、静止画で見ると普通の2Dアニメのようで、トゥーンシェーディング極まってるな! と驚きました。キャラデザが、若干バタ臭いのは、美女と野獣を意識してなんでしょうか。

 

この映画は、こういう最高にエモいシーンを描きたいんじゃ! という気持ちが先行している気がして、その繋ぎの部分や設定に客観性がなく、ちょっと詰めが甘い気がします。

 

まず、肝心のUの世界なんですが、みんな、なにが楽しくて集まってるんだろうな、って思ってしまいました。身体情報をスキャニングされて、勝手にアバターを作られ、いきなり自分のあずかり知らぬところで、イケてる勢とモブ勢に分けられてしまいます。

なんたる不条理! 容姿が盛りたいやつは盛ればいいし、場違いな格好したいならすればいい、その自由がメタバースではないでしょうか。アバターのイケてるイケてないは、各種飾り立てや、プレイ内容で決まるべきではないでしょうか。

Uの世界で、ユーザーたちは何をして遊んでるんでしょう。バトル要素はあるようですが、みんなビュンビュン空を飛んでるだけで、チャットは別アプリでやってる描写あるし、謎でした。

 

竜が、どうして嫌われているのか、よくわかりませんでした。醜い姿と言いますけど、そんな姿に設定したのは、Uのアルゴリズムが悪いわけです。僕なら、Uの運営会社を訴えますね。執拗に攻撃してデータを破損させるって、そんな設定にしてるプログラムが悪くないですか。

仮想世界での禁忌といえば、チート行為ですが、竜はそんなことやってませんし……。

迷惑行為をするユーザーに対しての制裁は、普通はキックして締め出したり、運営に連絡してアカウント停止してもらう事だと思うんですが、Uではナナメ上を行ってて、なんと身バレさせるという制裁で、なんかメタバースというか、匿名掲示板と混同してないか? と思ってしまいました。昨今はプライバシーにうるさいので、こんな機能を企業はスポンサードしないだろうし、アプリそのものが審査を通らないんじゃないでしょうか。

正直、製作者側に、きちんとした仮想現実世界の知識や、思い入れがあるようには思えず、ファンタジーの魔法のかわりに、本当の自分と偽りの自分を描くための装置として用意したように感じます。ちゃんとしたアドバイザーを入れたら、もうちょっとリアリティがあって、魅力的な面白い世界になったんじゃないでしょうか。

 

この映画がいつから作られているのかわかりませんが、パンデミックで人とリアルで会うことができない世界だったら、Uという仮想現実世界が流行っていることのリアリティがあったように思います。

 

ベルの最初のフォロワーになったクリオネのような天使のアバターの正体は、竜の弟くんでしょう。竜がベルのライブに乱入したのは、弟くんが誘ったのかもしれません。そこでジャスティスに見つかって、乱闘騒ぎになってしまったという流れではないでしょうか。

竜の城に天使がいる理由も、解決できます。

ところで、クリオネってカワイイ見た目に反して、肉食かつ共喰いもするような生態があり、弟くんも見た目通りじゃねぇぞ、という含みを持たせているのではないでしょうか。

 

ベルがどうして竜に関心をもったのか、竜とベルとの交流の描写が、非常に不自然に感じました。いつの間にあんなに仲良くなったんでしょうか。好きな相手いるのに、急にキスしようとしたり、抱き合ったり、俺の知ってる日本の芋っ娘と違う……。田舎ほど性が乱れてるってことなのか。まあ、あれは竜が子供であるということの伏線で、すずの母性が目覚めちゃったという話なんでしょうけど。

 

竜とベルのダンスシーンは、むしろ滑稽でシュールに感じました。城のAIたちは、美女と野獣における、魔法で姿を変えられた召使い達をオマージュしているのだと思いますが、そこまで合わせる必要あったのかなぁ。

 

終盤、子供を助けに、すずが東京へ行くのを、しのぶくんですら一人で行かせたのって変じゃないですか。交通費足りなかったのかなぁ。

しかも、このときすずは、ベルであることを全世界に明かしています。いままで塩対応だったクラスメートが急にすり寄ってきてスマホ通知は鳴り止まないだろうし、メディア取材だってたくさん来てるはず(私の心の闇があふれるぜ)。

50億もユーザーいるんですから、もう有名人でしょう。道中は「あれ? あの娘って……!」 ってパパラッチされたり、人だかりになることが想像できますが、何事もなく目的地へ到着。このあたり、描きたいシーンが先行していて、あんまり練られたシナリオではないな、と感じる部分です。

 

肝心の、このシーンが描きたかったんだろうな、っていう歌うシーンは圧巻で、最初のミレニアムパレードのUは、物語の始まりを告げるワクワク感、スケール感を感じました。ツインドラムの重層的な音、どこか地母神的な感じのあるベルのビジュアルともマッチしてました。劇場の音響の迫力もあって、PVで聞くよりよかったです。エンドロールでも流して欲しかった。


www.youtube.com

 

次いで、クライマックスシーンのはなればなれの君へは、思わず涙してしまう名シーンでした。

すずに呼応するように、一人ひとり胸に光が点っていく演出……理屈はわからんけど、良かった! そして、自分の自己犠牲の行動をとおして、母親の行動の意味を理解する……すごく感動的でした。


www.youtube.com

 

シナリオの全体の完成度は独りよがりで、今ひとつに感じましたが、シーンごとの映像は綺麗だし、音楽も良かったです。

 

追記:他の方の感想も読んでみて、すずと竜の二人がずっと胸に隠していた想いというのは単純に「おかあさんに会いたい」 ということだ、ということで、ハッとしました。

これは読み取らなければならないメッセージでしたね……。

竜が乱暴なのは、弟に弱さを見せたくなかったからで、すずがたった一人で東京に向かうのは、母親の行動をトレースしているからです(不自然だ、という指摘は撤回するつもりはないですが)。

はなればなれの君へという歌は、自分と同じ傷を負った竜への、恋心を素直に打ち明けられないしのぶへの、そしてもう会うことができない母への想いを綴ったものだったんですねぇ。