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傑作・100日後に炎上したワニの本を買った‐失敗広告と、即日批判してPV稼ごうとした心理は一緒

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正直告白すると、僕は100日目の炎上で、自称ブロガーとしてすぐにマーケティングの批判記事を書こうとした一人だ。でも、作品だけ読んでおいて、作者にお金を落とさないという、今回の場合は微妙に的外れな批判ももっともな部分はあるし、本を買って免罪符とし、満を持して薄汚い守銭奴広告屋をこき下ろしてやろう、と書籍を予約していたのである。そのとき、下書きしておいたブログ記事のタイトルは、「100日後に殺されたワニの本を買った」であった。だれに殺されたって? それはマーケティングだ! 正義は我にあり!

しかし、一週間経つと、いろいろな感想を読むうちに、別の考えも浮かんできた。今回のマーケティングと、それ批判する人たちに、それほど違いがあるのだろうか? ということだ。

 

100日後に死ぬワニは、漫画家・イラストレーターのきくちゆうきさんが、SNS上で100日間連日投稿した四コマ漫画作品だ。

主人公のワニくんと友人たちの日常をたんたんと描く。ワニくんは、長期連載漫画の続きを気にし、感動した映画の続編制作のニュースに喜び、友人たちとのメッセージアプリでお決まりのやり取りをしてラーメンを食べる。不透明な将来への不安、でも当然のように未来は続いていくと信じて浪費していく日々。しかし、漫画の枠外の第四の壁の向こう側では、一日、一日とワニくんの寿命が冷酷にカウントダウンされていく。

読者は、当初ほのぼのとした雰囲気の絵柄に、「死ぬ」という言葉にリアリティーを感じられず、冗談で「殺すぞてめー」と安易に使ってしまうような、コメディめいた面白みを感じていたのが、次第にワニくんの日常が自分自身の日常とリンクしていき、日々の何気ない営みの尊さ、儚さが100日間日々更新される時間の重みと共に身に染みていく。

この作品は、ソーシャルメディアを使った方法が画期的で、間違いなく傑作である。そして、マーケティングにおける悪い意味での事件として、同じく歴史に名を残すだろう。

 

最初、書籍化のニュースが完結前に発表された。このニュースに対して、「なんか冷めた」という声が上がった。その反論が、「クリエイターが作ったものに対して、対価が支払えないとは、最近の違法アップロードサイトなんかを利用する連中はリテラシーが低すぎる」という趣旨だった。「なんか冷めた」という感想に、違和感もあったが共感もしていた僕は、自分を恥じた。確かに……!  いや、でも違和感がある。書籍化されることは嬉しいんだけど! 証拠にこんな記事書いてる。

smoglog.hatenablog.com

 

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そして迎えた100日後。いきものがかりとのコラボ楽曲発表。映画化。グッズ販売。追悼ショップ立ち上げ。怒涛のマーケティング。

違和感の正体は、これだった。作品のラストへ向けて、ワニが(別世界線の自分、あるいは親しい人が)死んでしまうかもしれない、そんな雰囲気の中、まるで死ぬことが喜ばしいことのように喧騒する神経。

広告の批判の中に、葬儀中に悲しんでいるところを遺産相続の話された気分だ、というものがあった。その気持ちは僕にも痛いほどわかる。こうして書籍化されたとしても、一日一日、明日はどうなってしまうんだろう、とハラハラした新鮮な体験は二度とできない。それを踏みにじられたのだ。

ではそんなマーケティングをした広告屋は、人の皮を被った鬼か?

 

日にちが経って、少し冷静になって、こんな下手っぴな広告を展開した人たちの気持ちも、すこしは理解できるようになった。

このプロジェクトが巷で噂されるように、最初から仕込まれていたのか、それはわからない。でも、書籍化やグッズ化、コラボなどを形にするのにも時間がかかる。ましてや、ウィルス感染が深刻なこの時期だ。100日目という、最も「旬」な完璧なタイミングを狙って、綱渡りのような日々を送ったに違いない。その中で、作品のテーマを考え……今回の場合、そのタイミングは悪手であるというマーケティング的な視点は失われてしまったのだろうと想像できる。

 

すごくもったいないことだ。今後、100日後に死ぬワニフォロワーは、嫌になるほど登場するだろうが、おそらく二番煎じで終わる作品がほとんどだと思う。今回の失敗がなければ、ワニくんはミッキーマウスやスヌーピー、ハローキティのように長く愛される定番キャラクターとなっただろう。現状は色モノキャラ、再び評価されるのにしばらく時間がかかると思う。

 

全ては「現代は廃れ流行の巡りが早い」という幻想が起因にあると思う。本当はそんなことなく、良いものはずっと愛される。ときどき、誰かが我がモノ顔で「〇〇オワタ」なんて言うが、そう思いたいヤツがいるだけで、ファンはずっとそれを愛し続ける。「現代は廃れ流行の巡りが早い」と信じているのは、今回の広告の仕掛け人であり、そして、炎上して一番注目を浴びている即日に批判してPV稼ごうとした人たちも、また同じなのだ。さあ、ワニを殺したのは誰だ?

 

(書籍が出たと同時に、この記事を書いた僕も同じ穴のムジナです)

 

本は良かったです。追加エピソードも良かった。

 

追記:炎上の真実

当時、正義振りかざして叩きに叩いた連中読んだかー?!

100日後に振り返る「100日後に死ぬワニ」 作者・きくちゆうきインタビュー (1/5) - ねとらぼ