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藤田祥平 / 電遊奇譚 - ゲームエッセイの書評

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僕がこの本を手にした縁は、はてなブログによるところが大きい。

3年前に書いた記事にスターをもらったブログの中の人が、本としてまとめられる前に掲載されていたIGNジャパンの編集者・ライターであった。その連載そのものにGOサインを出したのも彼だったらしい。

smoglog.hatenablog.com

 

IGNジャパンに掲載されていた「電遊奇譚」を僕は目を通していない。件のブログの主が、IGNジャパンの中の人であると僕は随分長い間気づいていなかった。

ブログとIGNジャパンが繋がりRSSフィードで読む頃には、連載は終わっていたようだ。その頃には、ポッドキャストの「しゃべりすぎGAMER」の配信が楽しみになる程だったので、本の発売を知り購入した次第だ。

参照‐Dance to Death:死に舞 on the Line、Search 電遊奇譚 | IGN Japan、 

 

 

本稿26章で構成されている。

WEBサイトでの掲載は29回とクレジットされているので、3つのエピソードはなんらかの理由で抜けてしまったようだ(もしくは統合された?)。

このエッセイはゲームをプレイした体験そのものを主眼に置いていない。ゲームと共にあった著者の半生回顧録、出会った人とのエピソード、現実とは思えないような「小説」のような話。最初の数章を読んで、僕の心を占めたのは、実のところ「怒り」であった。

 

話が巧すぎるのである。

本の中に登場する著者=私は、シニカルでニヒルでヒロイックで、物語の主人公のように絶望と才能を持っていた。登場する誰も彼もが、できすぎの優しさと悲しさと奇妙さを持っていた。エピソードの最後はよく出来た短編小説のような余韻があった。話のどこまで信じていいのか判断できなかった。

 

なんだか疲れてしまって、まだ先の長い本の先をペラペラと捲って、最後の著者略歴を読んだ。

藤田祥平
1991年、大阪府生まれ。京都造形芸術大学文芸表現学科クリエイティブ・ライティングコース卒。「IGN JAPAN」、「現代ビジネス」、「ユリイカ」などでライターとして活躍。2018年4月に、早川書房より書き下ろし小説『手を伸ばせ、そして、コマンドを入力しろ』が刊行される

この人はゲームレビューサイトのライターではなく、小説家なんだな。

だから、本の中の出来事は、真実か嘘かはどうでもいい。彼は物書きとして、面白いものを書いた。文中には免罪符のように「昔のことで記憶が定かではない」「酔っ払っていてよく覚えていない」と散見できる。

 

それから面白可笑しく読む事ができた。自分の喜びも悲しみも恥も素晴らしさも、全て面白い文章に変えてやるという気概を感じた。

26のエピソード の中から、特に僕が気に入ったベスト3を紹介したい。

 

其6「小学生の雀鬼が麻雀を辞めるまで」

麻雀というゲームに興味を持ちルールを覚え、大人の中で賭け麻雀をするという話で、腕前が大人顔負けだが加減をしらない子供故に、手痛い洗礼を受けるというエピソード。

強く感じるのは、同年代の人間とは馴染めない少年の孤独だ。まわりよりも少し大人びていて、しかし大人ではない故に、処世術や場を読む力がなくてヘマをしでかす。同年代よりも大人の方がなんとなく気が合うと思っているのは、大人たちの優しさに期待しているだけだ。その後の彼の苦難を匂わせるが、このエピソードでも「子供である私を同等と認めた真剣勝負だった」と虚勢を張る(事実ではあるが)。その気持が痛いほど理解できる。

 

其19「あとにして、わたしはいまハイラル王国にいるの」

もちろん題材の「ゼルダの伝説ブレス・オブ・ザ・ワイルド」が素晴らしいのは言わずもがなだが、「シングルプレイのゲームを寄り添って遊ぶ夫婦の姿」と言うのが、僕には、この世でもっとも夫婦の幸福そのものに思えるのである(異論あるなら聞くけど、結婚シーンはそれが絶頂ならそのあとの生活は下降していくの? 出産は子供を授からないという選択した・しなければならない人はどうなんだ?)。

たしか、ほぼ日刊糸井新聞にも、爆笑問題の太田夫妻の、MOTHERを通しで遊んだという記事があったと思う。男のセリフは夫が、女のセリフは妻が担当したそうだ。

 

其23「ゲームは人生の解釈である」

この本のコアの部分だと思う。著者が一生を掛けて伝えたいこと。

特に開発者の人は必読。

世間も開発者本人もゲームを過小評価し過ぎである。

僕はお酒を飲めない(味も頭がぼーっとなる感じも嫌いだ)が、「お酒が飲めないなんて人生半分は損しているよ」と言われる度に「そうなのか、すげー損したな」と思う。でもそう言う人がゲームを遊ばないなら、「ゲームを遊ばないなんて人生半分は損してますね」と言って、イーブンな気持ちになれる。

 

 

この3章以外も凄く心に残るエピソードばかりだった。

セレンディピティというか、最近見た映画レディプレイヤー1にも通じるメッセージ性を感じた。人との関わり方、繋がり方にゲームがあってもいいじゃない。

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そんなわけで、小説も購入した。

 

電遊奇譚 (単行本)

電遊奇譚 (単行本)

 

(ブログ一ヶ月連続更新チャレンジ26日目)

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