smogbom

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マトリックス・レザレクションズのネタバレ感想-蛇足か傑作か

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解せぬ。

マトリックス、マトリックス・リローデッド、マトリックス・レボリューションズの三部作(トリロジー)にて幕を閉じたマトリックスシリーズが、二十年近い時を経て再始動し、すげー見てぇ!!! と思っていたんですけど、ドカ雪やら友人と都合がつかなかったりして、見に行けていませんでした。結局、一人で見に行きました。上映スケジュールの関係で、吹替派なんですが、字幕版でみました。特に込み入った設定なので、吹替で見たかったな。

ネタバレは見てませんが、世間の評判をみるかぎり、賛否がわかれる感じでしたが、自分は最初のシーンから、ほぼほぼ最後まで「なにこれ、面白!!!!」 と大興奮でした。

だから、世間の半分の駄作であるという評判が全然理解できませんでした。

以下、完全なるネタバレ(三部作含む、ちょっとうろ覚えなので、勘違いあるかも)なので、ご注意ください。

解せないといえば、見る前に今回のマトリックスは、3作目の続きではなく、第一作の続きであると聞いていたんですが、内容は完全に三作目の続きでした。見ていて、困惑しまくりました。

これってどういうこと???? 僕が思うに、お話そのものは、三作目の続きでしたが、レザレクションズのシナリオの構成は、完全に第一作の構成を踏襲しています。

最初のトリニティが襲撃されているシーン、マトリックスという込み入った設定を説明するのに映画の半分を消費するアクション映画としては欠陥ともとれる異常な構成、現実世界への帰還、空手特訓シーン、ネオとトリニティがキスすることで覚醒する、マトリックス世界で空を飛んで幕を閉じる……様々なシーンが第一作と鏡合わせのように(劇中でも鏡が非常に印象的に使われていましたね)レザレクションズと呼応しています。

そういう意味で、第一作の続き(テーマとして)という発言があったのではないでしょうか。

 

さて、最初のシーンは、トリニティが警官の襲撃を受けるシーンです。その影で、新キャラのバッグスとナビゲーターが見守っています。前作のワンシーンに舞い戻る、このシーンはバック・トゥ・ザ・フューチャーのパート2のようで、この段階で、めちゃくちゃ面白そうじゃない!!! と期待感を煽ります。

これは、第一作の続きという発言から、もしかするとループもの? いや、マトリックスではなく、モーダルという仮想世界みたいだから別のパラレルワールドなのか? 知的好奇心がビンビン刺激されて、目が離せられません。

 

そして、配役が変わったモーフィアスの登場。モーフィアスとは変化、という意味です。マトリックスを影から管理するエージェントからレジスタンス側に変化した、今回のモーフィアスは、今作のテーマにおいて、非常に象徴的な、とても重要なキャラクターです。

なぜなら、そもそもマトリックスというのは、機械が人間を裏切り、支配したという単純な二次元論の戦いを描いていました。ターミネーターと舞台設定は変わらないです。約二十年の時を経て、人間社会はより複雑化して、敵味方の2つでフィクションを描くには不十分になりました。多様化を受け入れた証明として、いの一番に登場する今作のモーフィアスは非常にアイコニックに感じました。

 

レボリューションズで死んだネオが生きている、という情報から、バッグスとモーフィアスはモーダルから脱出し、トーマス・アンダーソンを探します。

なんとネオは、マトリックスの中でゲームデザイナーでワーナー・ブラザーズが出資して大ヒットしたマトリックス三部作というゲームの生みの親として登場します。すごい設定ですよね。えええー! これは、過去三部作は、トーマスの考えた妄想ってこと? これに似た設定としては、スター・ウォーズです。ルークってルーカスの渾名らしく、自分を主人公にした映画をジョージ・ルーカスは撮影したんです。

 

 

マトリックスは、一人の男の頭の中の壮大な妄想だったのか。話の行く末はどう転ぶのか、わからなくなってきました。そんな中で、上層部の命令で、望まぬマトリックス4作目を作ることになります。このシーンはメタメタで、皮肉なコメディとして秀逸でした。同じようなことをエヴァもやってましたが、泥臭く苦しみぬいてやっていたエヴァに対して、レザレクションズは非常に客観的でスマートなやり口です。批評家やファンが、好き勝手に言いそうなことを劇中で先んじて俳優に言わせてしまう。言われんでもわかってるわい、わかっててやってるんじゃい、という監督からのメッセージのように思いました。

 

先にも書いたとおり、ここらのシーンが長く、退屈に感じるかもしれませんが、ここが現実なのか、仮想世界なのか、二転三転どちらともつかず、僕はハラハラしました。仮想世界なら前作とのつながり……ネオはどうして生き残ったのかまったくわかりませんし、現実世界で全部ネオの妄想だったとしたら、悲劇です。

物語冒頭シーンのモーダルという仮想世界が、ネオのプログラミングだとしたら、これまでのシーンは本当だったのか? 精神科医から処方された青い薬の飲むシーンで、一瞬鏡にキアヌではない老人が映らなかった?! ティファニーとお茶をするシーンで、窓越しの路地をチェック柄の同じ男性が二回通らなかった(マトリックス内でデジャヴュはマトリックスによる改ざんによる予兆とされる)?! タイミングよく子供の鼻にレゴが詰まったっていう電話来たな……。ゲーム会社にテロ予告が来て、謎のメッセージ、現れるモーフィアス……なんちゅうアバンギャルドな格好なんだ。バトル……えーーーー! お前がスミスなんかい! やっぱりここはマトリックスなのか? ……しかし、精神科医のところへジャンプ……もう、わけがわからん……。

 

一度は赤い薬を断ったネオですが、屋上から飛ぼうとしたところバッグスに呼び止められ、ここがマトリックスの中だと知ります。ここの流れはちょっと拍子抜けしてしまいました。

現実世界への帰還、20年と思っていたら60年経過していた、ということが知らされ、その間の歴史が語られます。懐かしい顔も見れます。

 

マトリックスの設定で長年疑問だったのが、マトリックスの世界がユートピアだったら、誰も不満に思わず、機械の支配を受け入れるということです。第一作で裏切り者が「俺をハリウッドスターにしてくれ」って言ってたじゃないですか。今作では長年の疑問が解消されました。すなわち、幸福で安寧な世界を作ると、人間電池の発電量が減ってしまうということです。ネオが機械と取引して作った平和は、発電量の低下をもたらし、機械同士の戦争に発展、なんと人間側に協力する機械も現れます。エージェントがモーフィアスになることと重なりますね。

 

機械がネオとトリニティを再生(レザレクション)した理由もここにあります。マトリックス側としては、自分たちの体制を壊しかねない爆弾を抱えていることで、人間電池達に刺激を与えて発電量を増やさなければならないのです。

平和であることが、新しい火種を生んでしまうなんて、なんと示唆に富んだ設定でしょうか。我々の現実だって、不都合な国や競合他社があることで、警戒心や対抗意識を持って真剣に生きることに向き合うことができるわけです。

 

マトリックスに囚われたネオとトリニティ、そして二人を監視するスミスが三位一体(トリニティ)になっていて、ネオがそこから脱出したことで、スミスが自由になる。人間側とも機械側にも属さない、トリッキーなキャラが登場するのも面白いですね(もともとそういうキャラ属性ありましたが)。

 

マトリックスが再始動するにあたり、楽しみな反面、ちょっと心配したのが、ネオとトリニティ役の高齢化でした。特にネオは、身体付きもだらし無く、ちょっとヒーロー役としては残念な感じでした。しかし、劇中では年老いた二人の味わい深さ、マトリックスの支配によって失われた年月の切なさ、初老カップルの深いつながりが尊くて、何度も目頭が熱くなりました。

最初、囚われのお姫様みたいな立場にあったトリニティが、第一作でネオが死んでキスで蘇り覚醒するように、今回はキスで逆に自分が飛ぶ能力が発現している(ように僕は思った)。女性キャラクターがネオを喰ってしまって、今回のヒーローになっているのも現代的だな、と感じました。