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書評:蜜蜂と遠雷‐著/恩田陸

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10月に公開される映画の予告編を見て、気になり原作本を読んでみました。

めちゃくちゃ面白くて一気に読んでしまいました。

ピアノコンクールに挑戦する4人の無名のピアニストのお話なんですが、めちゃくちゃ熱い話でした。

感覚としては、音楽の小説というより、王道の少年バトル漫画を読んでいる感覚で、始終ワクワクしていました。

ちょっとうろ覚えなんですけど、ジョジョの奇妙な冒険の荒木飛呂彦さんの著書に荒木飛呂彦の漫画術がありますが、たしかこの中に、良いストーリーというのは、物語の冒頭が不幸のどん底だったら、後はラストまで上り調子のまんまが良いって書いてあるんです。途中で、ドラマティックに展開が起伏するのは作家のエゴで、そんなの読者は望んでいない、と。主人公は、ただただ活躍して難敵を打倒し、ヒロインを射止め、夢を叶える。そんな物語が良いんだと。蜜蜂と遠雷はそんなお話でした。

 このお話には4人の主人公が設定されていて、どのキャラクターも良かったです。

一人は、巨匠の秘蔵っ子で、規格外すぎる才能ゆえに、権威的な傾向にあるコンクールで果たして評価できるのか、微妙な天才。まあ、少年漫画で言えば、主人公ですね。

二人目は、中学生でプロデビューを果たすも、公私で支えてくれた母を亡くしたことで、ピアニストとしての立ち位置を失ってしまった女性です。プロでなくても音楽はやっていけるし……という立場なんですが、まわりの人間がコンクールに立たせるんですね。他のコンテスタントと関わっていく上で、彼女の心情がどう変わっていくかが、大事な見どころで、何度も涙しました。

3人目は、普段は楽器店勤務のサラリーマンながら、実は心の奥底に野心があって、コンクールはこれで最後と考えて挑む男性。

四人目は、言ってしまえば、エリート街道を突き進む、スターになることを約束された青年です。

 

この中で、一番地味な3人目の高島明石が、良いんです。他の三人が規格外の才能の持ち主なので、地味な印象なんですが、彼は読者に一番近い位置にいてくれて、ちょっと浮世離れした印象の天才たちとはまた違った見方をしてくれます。ピアノコンクールという、我々からみれば異常なイベントの空気感を伝えてくれます。コンテストの結果も意外性がありましたし、彼の結果が伝えられた時、自分のことのようにショックを受けていました。

 

映画の予告編をみたとき、こいつは気に食わねーって思ったのが四人目のマサルなんですけど、小説を読んだら、彼が一番好きになりました。まず、身の上として、日系ペルー人ってだけで、日本でかつて差別をうけていたってことに心打たれてしまいました。ピアノと彼女と出会うという運命的な流れも良い。ロマンス! 

容姿、才能、師匠に恵まれたスター性と、人格者でピュアでありながら、きちんと戦略性ももつという複雑な人物造形も良かったです。

 

上巻を読んで、これは大変な大作だ、さぞかし入念に準備して書き下ろしたのだろう、と思ったんですが、実は長期連載作品だったそうです。下巻の巻末に担当編集者の解説があるのですが、誰々を今回こそ落選にするとか、プロットは二転三転していたようです。王道の少年バトル漫画を読んでいる感覚っていうのは、長期連載のライブ感も手伝っているのかもしれません。

 

ここからネタバレ

コンクールの結果については、自分は納得いってなくて、風間塵の3位はともかく、一位は亜夜だろって思うわけです。一番好きなキャラはマサルだけど。

ラストもちょっと残念でした。

なんで亜夜の演奏を端折ったんでしょうか。そのほうが演出的に良かったから? 筆者が力尽きたんでしょうか……。圧倒的にピアニストとして完成されているはずの亜夜が僅差で2位、それって演奏が他と抜きん出てよいわけでは無かったと言うことですよね……。一応、ピアニストとして復活したんだから良しとするということでしょうか。

この話の流れのせいで、高島明石が奨励賞と菱沼賞を取ることが、随分前に知らされてしまうんですよね。まあ、取るってことは読めますけど、運営から電話が鳴ったシーンで止めておいて、伏線にしておいて、受賞のときに読者にも知らされる、ってやったほうがドラマティックだし、4人の主人公が最後まで揃い踏みしている感じがします。そこだけ残念。

 

映画も楽しみです。

さっきまで蜂蜜と遠雷って言ってたのは内緒だ!

 

映画の感想

smoglog.hatenablog.com

 

 

蜜蜂と遠雷(上) (幻冬舎文庫)

蜜蜂と遠雷(上) (幻冬舎文庫)

 
蜜蜂と遠雷(下) (幻冬舎文庫)

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荒木飛呂彦の漫画術 (集英社新書)

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