先日亡くなられたApple創業者のスティーブ・ジョブズの伝記の日本語版が発売しました。多分、他人からは信者に分類されている僕も購入しました。
その前に、この記事を読みました。
参照 ジョブズの遺志をガン無視した犯人、それは講談社さんアンタだよ!
この記事の反響は大きかったみたいです。
参照 『ジョブズの遺志をガン無視した犯人、それは講談社さんアンタだよ』のリアクションまとめ
いつもの通り、Appleファンの過剰反応に、連鎖反応的に「キモイ」の声が上がりました。まあ、その反応は正しいと思います。でも、好きなんですから。中にはwindowsを槍玉にあげるような精神的に未熟な脳科学者もいますが、基本的には、人は人、私は私で住み分ければいいじゃないですか。
そして、お互いが切磋琢磨すればいいと思います。本当に。
反響の中には、帯を外せば普通というコメントもありましたが、本当に普通でしょうか。
普通の本としても、この本のカバーはプロの仕事として、マズイのではないでしょうか。
本の出版には何一つ関わりのないシロウトの意見です。
でも、本は大好きの人間として書いてみます。
この”人によっては普通”と評される本にグリッドレイアウトを当ててみます。
グリットレイアウトは活版印刷術をヨーロッパ圏で発明したグーテンベルクの出生地であるドイツで誕生したと記憶しています(ちなみに側近だった人の著書、ジョブズ・ウェイによると、ジョブズはグーテンベルクを大変信奉していたようです)。
グリットレイアウトは、僕達が新聞や雑誌を迷わず読むことが出来る理由でもあります。
目には見えない格子の中に、文字や写真を配置することで、見た目を整理し、その本の原則を形作ります。
グリットレイアウトは、本やチラシ、Webサイトなどにとって、基本中の基本です。レイアウトに反する事もありますが、それは際どいライン上で行われる隠し味のようなもので、見るものが例えシロウトであっても、破綻している事がわかるはずです。
前置きが長くなりましたが、見てみましょう。
どうでしょうか。酷いものです。
ここでは、ジョブズ本人という要素、英字のタイトル、日本語のタイトル、著者名と4つの要素が全て違うグリッド上に配置されています。法則性は全くなく、本を作る上で大事な余白も無く、ただ並べただけのように見えます。
これは、デザイナーの仕事ではない。
僕はそう思います。
では誰の仕事か?
僕はデコレイターの仕事と言っています。
デコレイターが正しい英語か知りませんが、デコレーションする人という意味です。
例えば、無意味にたくさんある家電の機能。便利ではない”便利な新技術”。わかりづらい説明書、要領を得られないチラシ。それらはデコレイターの仕業です。
デコレイターは、自分をデザイナーだといいます。
例えば、建築家と言う名称は、自称・他称であり、職業ではありません。バックミンスター・フラーや、ジャン・プルーヴェは自分の事を技術屋とは言いましたが、建築家とは言いませんでした。他人から建築家と称されたのです。
デザイナーも、その名を通りの良いキャッチコピーのように自ら称するのではなく、他人からデザイナーと称されるものであって欲しいと思います。
デコレイターの生態として代表的な特徴の一つとして、彼らは物事に優先順位を付ける事ができません。
だから、この本の4つの要素の全てが大きく配置され、結果、不協和音となって、お互いが邪魔しています。
あまり好きな表現ではないのですが、”ジョブズの遺志”なるものが反映された英語版はどうでしょう。
一番に見えてくるのは、ジョブズ本人です。
Appleのサイトや、ニュースにも度々、登場したこの写真は、本来この写真だけで購買者に十分な訴求力を持っています。わざわざ、緊急出版とか書かなくていいんです。
次に、タイトルは黒文字ではっきりと書かれています。
そして最後は薄いグレーの著者名。優先順位の順番に、地と図とが、はっきりと階層分けされています。全てはシンメトリーに配置され、奇をてらったところはありませんが、調和しています。
デコレイターの生態その2。
デザイナーは切り捨てる人ですが、デコレイターは不要なものまで盛りつける人たちです。
今回の本で言うなら、英字のタイトル、英語表記の著者名の部分です。
これは何の意味が有るのでしょうか。
多分、デコレイターは英語がかっこいいと考えているんでしょう。
典型的な日本人の欧米コンプレックスのように思います。アジアの中で日本人が最も欧米化したアジア人であると思って、それを誇りにでも思っているのでしょうか?
ジョブズは日本の禅宗をデザインや経営哲学に取り入れました。日本からAppleが誕生してもおかしくなかったはずです。
デコレイターの生態その3。
世の中には、理由があって高価なものがありますが、反面、理由が無いのに高価なものがあります。
デコレイターは、後者のものを作りますし、それらが大好きで、良く購入します。
高級、豪華、華美なものを手に入れたときの優越感、喜びは心の貧しさから来ているということ彼らは知りません。
なぜ、高級なものや、お店が貧しさに繋がるのか。
それは、そういったものを購入し、得られる喜悦とは、それを手にいれられない貧しい人たちを見下すことから得られるものだからです。
僕が最も尊敬する、デザイナーにしてアーティストでもあるブルーノ・ムナーリも、著作で「豪華さはデザインの問題ではない」、と述べています。
また、日本ではスーパーカーの王様とも称されるランボルギーニ・カウンタックのデザイナーである、マルチェロ・ガンディーニは、とある雑誌のインタビューで、「個人的にこのような車は好きではない」と答えていますし、事実、シトロエンやルノーといった一般大衆車のデザインも数多くこなし、そのような仕事に熱意を燃やしたと言われています。このことからも、ガンディーニの愛車が日本のスズキ・ワゴンRであったことも不思議ではないでしょう。
ここまで偉そうなことを書いたので、本業ではないにしろ、自分なりに日本語版のスティーブ・ジョブズ Iをリデザインしてみましょう。
アメリカ版に近づけるだけ、と言えるかもしれません。
その上で、この本の装丁に関わった人たちが何を重要視したのかわかってくると思います。
まず、この本にとって不要・意味のない要素を消します。
この時点で、大分すっきりしたと思います。
次にオリジナルに無かったオレンジ色の「I」を黒文字に。何でオレンジ色にして差別化をわざわざしたのでしょう?
・・・多分、続きものということを明確にし、下巻も買わせたいのでしょう。正直、滑稽ですらありますね。
オリジナルと同じように著者名の部分をグレーに。
はい、完成です。
要素が減ったお陰で、アメリカ版に近づきました。
せっかくなので、自分で最初から装丁し直してみようと思います。
ソフトは、MacAppStoreで販売中の、このために購入しようと思ったら、なぜか日本語非対応になっていた、Pixelmatorで作りました。
余談ですが、Lionの”バージョン”の機能のせいだと思うのですが、時々保存しないと酷く重くなってしまう感じでした。
さてさて、作業については、
カバーのサイズを図り、ガイドを引きます。
画像を配置して、
(表のジョブズが完全に中央に来ていないのは、どこかで、モナ・リザで視線をひきつける効果を狙って、そのようにレイアウトされていると聞いた覚えがあったのと、完全にシンメトリーなのも何だが味気ないな、と思ったので。)
好きなフォントでタイトルを書き、グリッドに準じ配置。
人間の目は案外、いい加減ですから、最後はグリッドを消して自分が信じる、まっすぐ・丁度いい位置に配置します。
できた・・・。
A3の紙を本の高さにカットして。
コレでA4プリンターに入るはず・・・。
カスタムサイズで、プリントアウト!!
・・・・エラー。
用紙サイズが対応範囲外です・・・。
あ、と言うかまだ中身を読むのが途中だった。
中身は今のところ、文句なしですよ。ホント。
それと、僕は本の価格は妥当だと思うし。
でも、本の出版社とは文化の担い手。
もっとがんばってください。