smogbom

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”浮遊するデザイン倉俣史朗とともに”展を見てきました。

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一番好きなインテリアデザイナーである、倉俣史朗の企画展を見に、埼玉県立近代美術館に行ってきました。過去の個展の図録などで知っていても、実物を目にして、考えがガラリと変わった作品があり、とても良い企画展でした。

余談ですが、今回は夜行バスで東京へ、東京から埼玉へ、再び東京に戻って人生初のカプセルホテルに泊まって、次の日は東京観光と言う名のゴミ漁りに、帰りは新幹線で帰るというプランでした。身体に負担がなく、もっともお値打ちな旅行プランだと、個人的には思いました。一人なら、東京ブックマークを使わずに、このプランで行こうかな、と。

 

今回は、企画展全てを振り返るのではなく、作品ごとに個人的な発見を書いていこうと思います。

 

◯ランプ”オバQ”

倉俣史朗作品としては、数少ない、普通に買うことのできる家具だったと思います。しかし、昔はハンドクラフトで一つ一つ形が微妙に違いましたが、今は型ができていて、全部同じと聞いた事があります。

ルームランプくらいの大きさかと思っていたら、デカイ! そういえば、昔どこかで、見た記憶があった様な・・・下から覗くとちょっと残念に感じた記憶があります。今回は下から覗きませんでした。

 

◯ガラスの椅子

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倉俣史朗の家具の中で僕が一番好きな椅子です。実物を見る事ができました。ガラスにとって、壊れやすいこと、緑がかった小口の部分など欠点を逆手にとったデザインです。フォトボンドという接着剤が発明されて、実現しました。こんな接着剤ができたけど、とサンプルを見せられて、ちょっと待ってとその場で図面を引いて、発注したそうです。

 

この椅子が僕と倉俣史朗の初接触の作品なのです。当時、倉俣史朗という名前自体知りませんでしたが、ストロークスというアメリカのロックバンドのシングルジャケットに、この椅子が使われています。まだ、デザインとかインテリアとかに、興味の無い学生のころ、結局購入しなかった(アルバムは後で買った)このCDジャケットの中の、実際に存在するとは思っていなかった椅子を、数年後、インテリアデザインの学校で習うまで、僕は頭の片隅に覚えていました。

 

長く、この椅子を普通に購入する事ができないのが不思議でした(なんせ、強化ガラスを接着剤でくっつけただけの椅子ですから)が、装丁デザインは残念な倉俣史朗読本と言う本に、答えが書いていました。

接着剤の効力は無限ではなく、次第に剥がれて、破損してしまうらしいのです。強化ガラスとは言え、そんな危ない家具を簡単に販売できません・・・よね。

 

◯ミス・ブランチ

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たぶん、倉俣史朗の家具の中でもっとも、有名な椅子です。

僕は、正直この椅子が苦手でした。

この椅子には、ただ単に綺麗である以外に、なにか意味が隠されているに違いない、と思いました。それが僕には見出す事ができず、触れることを躊躇わずにいられませんでした。

上で述べた倉俣史朗読本や、プロダクトデザイナーの川崎和男さんの著書を読んで、ちょっと自分なりに考えた結果、この椅子が嫌いになりました。

この椅子の中に封入されるバラは、最初は造花ではなく生花でした。しかし、生花では、アクリル樹脂に封入すると、黒くなってしまう為、造花が用いられることとなりました。つまり、この封入される花は、ダミアン・ハーストの動物標本と変わらないのでは無いか、と思いました。

 

ミス・ブランチは、東京デザイナーズウィークの「KAGU」展にて発表されたそうです。

当時はバブルの絶頂期、そして、展示会のテーマは「欲望」でした。

ミス・ブランチという名前は、「欲望という名の電車」という映画から取られたそうで、映画自体を見ていないのに、その”欲望”という言葉が、僕の中でクローズアップされてしまいました。この椅子の美しさの裏には、人間の業、尽きることの無い欲望が渦巻いているに違いない・・・と僕はゲンナリしました。そして、そんな見せ掛けの美しさに酔っている人たちに嫌気が指しました。

そんなわけで、僕は、この椅子が嫌いだった訳です。

 

ところが。

実際に見てみると、その美しさは、優しさに満ちていました。アクリルに封入された薔薇の造花は屈折によって平面的なテキスタイルにも見えます。二次元と三次元がアトランダムに織りなす・・・

僕は、自分なりに理解しました。

この椅子は、存在しながら存在しない椅子なんです。哲学者のプラトンは、現実世界を影として、理想の世界であるイデア界を夢想しましたが、この椅子は、イデア界にある椅子なのだ、と思いました。贅沢さだとか豪華さだとかの、低俗なくだらない要素から解き放たれた、美しさを追求したものなのだと。

 

◯ハウ・ハイ・ザ・ムーン

エキスパンデッドメタルという、粗雑な工業製品を美しいソファに。パラダイム・シフトこそデザインの骨頂であると僕は思います。会場には二人がけのものと一人のものが並んで展示されていましたが、じっくり見ると、仕上りが異なることに気づきました。仕上りが粗い方が、おそらく、初期のもので、網目一つ一つの荒れ目をグラインダーで削って仕上げたものだと思います。網目が全部ピカピカな方は、こちらはチタンでできていて、荒れ目は薬液に付けるだけで綺麗に落ちるそうです。

・・・逆かもしれません。勘違いかもしれません。

 

◯ヨゼフ・ホフマンのオマージュVol.2

電飾は点滅してパターン発光することを知りました。作品としては、ビギン・ザ・ビギンの方が好きですが、残念ながら展示されていませんでした。

 

◯インテリアデザインについて

時代の流れの中で、彼の実作となるインテリアデザインはなくなってしましました。

この企画展の中で、倉俣史朗本人が「作品は無くなっても、コンセプトは残る」と語ったかのようになっていますが、その言葉は、倉俣史朗が亡くなってからの個展の図録、「倉俣史朗の世界」の中で、建築家の磯崎新さんが述べた言葉だったのではないでしょうか? 本人がその言葉を口にしていたとしたら、ちょっとイメージが違うんです。傲慢に思えて。

 

◯図録

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個展の図録って大好きなんです。

・・・安いから。

 

◯まとめ

遠くから、見に来る価値のある企画展でした。もっとたくさんの人に倉俣史朗の仕事を知ってもらい、絶版図書の復刻を切に願います。

 

しかしながら、倉俣史朗の呪縛めいたものを感じる時があるので、次代の若手の皆様の頑張りにも期待します。世界に名の轟くようなデザイナーの誕生を楽しみにしたいと思います。