あなたはクチャラーですか？ まわりにクチャラーはいますか？ クチャラーを蛇蝎のごとく嫌っていますか？
クチャラーとは、咀嚼音の一つである「クチャクチャ」「ペチャペチャ」音を立てて食べ物を咀嚼し、周りが不快だと感じているにも関わらず、その状態を直さない人のこと。
僕は元クチャラーでした。自分をクチャラーと認識し、矯正するのに結構時間がかかりました。
現在進行系でクチャラーに悩んでいる人、自分がクチャラーと思っていない人（僕からすると自覚していない人が多いのだと思う）が参考にしてくれると嬉しい。
矯正に時間のかかる原因の一つが、「クチャクチャ」「ペチャペチャ」音が不快な音と思っていない点です。咀嚼音にはそれ以外にも「ポリポリ」「パリパリ」「モキュモキュ」などありますが、なぜかそれらは「良い音」とされ、ASMRなんかでも好まれる題材です。どうして「クチャクチャ」「ペチャペチャ」が不快な音なのか、僕にはちょっとも理解できませんでした。
さらに付け加えるなら、ペットが立てる「クチャクチャ」「ペチャペチャ」はずっと聞いていられるという人がいることです。えー？？ 意味不明。そいつが言うには、ペットは「可愛いから」といいます。じゃあ、美形の人がクチャラーだったら？ ……答えは「幻滅する」だってさ。マジ意味わかんない……。
このギャップの理解の一助となったのが、海外では日本のように熱いお茶やスープを音を立てて飲んだり、麺をズルズルとすすることは不快でマナー違反であるというのが一般的であるということ。要するに、僕の住む地域では誰かが「クチャクチャ」「ペチャペチャ」させながら食事することはマナー違反であるというルールを作り、それが広まり一般化されたのだと理解しました。僕が思うに、どこかの国では「クチャクチャ」「ペチャペチャ」させながら食事するほうがまわりも美味しそうに感じると思うところがあるのかもしれません。しかし、僕の住む地域は残念ながらマナー違反なので、郷に従うしかありません。
生来のクチャラー嫌いの方は、人間というのは生来「クチャクチャ」「ペチャペチャ」音を嫌う生き物で、クチャラーは絶対悪であると思うかもしれません。元クチャラーとして自分を擁護するつもりはありませんが、それはかなり狭量な考えであると指摘しておきます。時代が変われば常識や正解というのは変化するものです。肉食を嫌うあまりに肉屋に放火する菜食主義者や、すごいでかいおっぱいそのものを嫌悪して環境セクハラとのたまうフェミニストに近しい。あくまで僕がクチャラーをやめたのは、相対的にそれが多くの人に好ましくないと思われているという事実を知ったからです。「クチャクチャ」「ペチャペチャ」させたほうがいい国があるなら、僕は盛大に「クチャクチャ」「ペチャペチャ」させ、クチャラー嫌いの人にも「なんでクチャクチャさせないの？ マナー違反だよ」とドヤ顔で忠告するでしょう。もちろん、これは皮肉です！
さて、もう一つの理由ですが、ありがたいことに僕の母親、兄弟、友人は、僕にクチャクチャ音は不快だからやめて、と時に優しく、時に重大な犯罪を咎めるように厳しく……いや、ほとんどの場合すごく厳しく忠告してくれました。その時、僕が思ったことはこうでした。「いや、あんたら何を言ってるんだ？」そう、僕は自分がクチャラーだなんて、これっぽっちも思っていなかったのです。
それがよく分かるエピソードがあります。僕はいまでこそ元クチャラーと言っていますが、実際のところ、本当に矯正されているのかわかっていません。ただ、僕をけちょんけちょんに叱りボコボコにした連中……ありがたい方々のおかげで、モノを食べる時はとにかく口を閉じろという教えに従っているだけです。しかし、気がそぞろの時や疲れ切って放心しながら食事をする時は、どうやら口が閉じていないようなのです。先日、家を出て一人暮らしを始めた弟が帰ってきて、二人して腹が減り、カップ焼きそばを食べていました。隣にいる弟が「クチャクチャ」「ペチャペチャ」させながら焼きをばを食べだしました。おやおや？ 弟は僕の「クチャクチャ」音を次やったらヤッちまうぞレベルで嫌っていた男だったのですが？ まあ、そんな日もあるのかもしれません。僕は特に「クチャクチャ」音を気にしない男ですから、放置していました。すると、弟は痺れを切らすように、箸をバチン！ と机に置き、「てめー、この音が気にならんのか！！！」と怒号を飛ばしました。
そう、ずっと僕は「クチャクチャ」音を出して食事をしていたのです。
弟は自分が「クチャクチャ」音を出して諭してくれていたのですが、自分の出してる音がわからない……ミステリー……。とにかく、食事の時は口を閉じて咀嚼するようにしていますが、このように自分ではわからないので、「クチャクチャ」音を出していたら、やさしく……くれぐれも優しく！ 教えてくれると嬉しいです。
こんな僕ですが、最近の悩みは他人のクチャラーと相席してしまった時です。ここまで読んでくれた人は理解してくださっていると思いますが、僕は「クチャクチャ」音を気にしない男ですから、盛大に「クチャクチャ」してもらっていても、僕の心は凪いだ状態。美味しく食事を続けることができます。しかし、同じ釜の飯を食う中と言いますから、多少とも関係性のある人と一緒に食事して、この先クチャラーとして生きるのは結構厳しいですよ、と忠告して差し上げる程度の情はあってもよいのではないか……と悩むのです。さらに僕を悩ませるのは、どのように忠告すればよいのか、ということです。僕を矯正してくださったありがたき方々の方法はかなりスパルタでした。忠告はありがたいのですが、僕のセンシブすぎる柔らかいハートは少なからず傷つき、修復できない傷跡が残りました。同じ悩みを持つ同士、同じ轍を踏まないように、優しく忠告したいのですが、高圧的な方式で矯正された経験しかないため、なかなか上手な方法が思いつきませんでした。
とうとう、自分はその方法を思いついたのです。それがこの文章です。自分の経験則を語り、クチャラーを諭すのです。この文を読んで頂ければ、クチャラーも改心してくれると思います。たぶん。
