先行レビューにて、悪い意味で話題のミュージカル映画キャッツを日本の公開初日に見てきました。
映画の元となる1981年ロンドンで公開された舞台「キャッツ」は世界各国で上演され、2019年時点で、観客動員数は7300万人を上回る傑作です。対して、映画は予告編の時点で「人類には早すぎる作品」としてもてはやされ、2019年最悪の一本として批評され、興行成績としても大失敗に終わっているようです。そんな映画版キャッツの大喜利化した悪評の一例。
参照記事‐実写版『キャッツ』を一足先に観た北米メディアが恐怖におののき発狂する――「不浄なポルノ」、「ホラーであり、忍耐力テストでもある」、
実写版『キャッツ』がアメリカで一足先に公開されるも、レビューは大荒れ
「実写版『キャッツ』を観るのは、不浄で、これまで知られてなかったポルノのジャンルにうっかり遭遇したような体験だ。性欲を爆発させた毛皮のバケモノたちが、舌を伸ばしてミルクを飲んで、いやらしい声をあげるたびにFBIが劇場に乗り込んでくるんじゃないかと思った」
ーニューヨーク・タイムズ:Kyle Buchanan
「『キャッツ』を0~5点で評価するとしたら、玉ねぎかな」
ーScreen Crush:Matt Singer
「いかなる人間も目にすべきでない場面を目にした」
— ギズモード
「キャッツを観るのは、狂気への転落のようだった」
— Collider
こういう、極端な悪評が目立つ作品を、もしかしたらそんなに悪くないんじゃ? 自分なら良いところが見つけられるんじゃないか? なんて思って、公開を楽しみにしていました。
個人的に、歌やダンスは素晴らしいと思いましたし、ジョジョ立ちみたいに全シーンキメキメポーズする異様な空間は、前衛美術のようで面白かったです。
ただ、映画としては普通につまらなかったです。最悪なのは、上にあげたオモシロ悪評を考えて、騒ぎ立てるほどの突き抜けた駄作というわけでもなく、ただただ普通に面白くないんです。
僕は舞台のキャッツを見たことがないのですが、舞台は何度か見たことがあります。
舞台というのは、約束事の世界だと思います。背景のまったくないセットで、「ここは宇宙だ」と言えば宇宙となり、パイプ椅子を縦に2つ並べて、プロペラ音を鳴らせば、そこは戦闘機の複座です。丸わかりの嘘をついても、舞台という物理限界が厳しい状況故に、観客はその嘘を真実として受け入れます。
対して、映画というのは、嘘を見破られてはいけない世界です。入念なテストを経て、完璧な世界を作り上げなくてはいけません。設定にそぐわないものが写った瞬間、世界が壊れてしまいます。
舞台と映画でのキャッツたちの姿を例にします。舞台において、あの姿は猫として納得できたでしょう。しかし、映画では奇妙な格好をした人間にしかみえません。
また、舞台にはカメラカットというものは存在せず、役者と観客との距離は一定です。役者と観客との距離がありますので、役者は、大きな身振り手振りをします。
映画においても舞台と同じ動きを役者にさせることによって、奇妙な姿をした人間達が、アブノーマルなプレイ中のような見た目になってしまったのだと思うのです。
重ねて言いますが、歌やダンスは素晴らしかったです。主人公の歌声は息をのむほど透き通っていて瑞々しくて美しく、グリザベラの独唱に涙が滲みました。しかし、映画全体を通して、本来エンディングへ向かって気持ちが昂ぶることはなく、どんどんと冷めていっていまう自分にずっと違和感を感じていました。自分は一体何を見せられているんだろう? とずっと困惑していました。
これが舞台だったらどう思っていただろう? と考えました。
舞台というのは、当然やり直しが効かない一発勝負。何ヶ月にも及ぶ練習と準備の結実です。一度たりともミスは許されない。それ故に感動を覚えるのです。対して、映画ではカットが入るたびに、きっとリテイクされて、一番良いものが採用されているんだろうな……と興ざめしてしまうのです。
僕は映画がわりと好きですし、良いと思ったところを見つけるのも好きだし、悪いと思ったところをこう変えたら良くなるのでは? と考えるのも好きです。
キャッツの場合はどこが悪かったのか。
舞台のキャッツを、忠実に映画にしようとした、という企画の最初の段階で失敗している、と思いました。なんと劇場公開後にCGシーンが修正かかったことも、この映画の失敗している部分に製作者が気がついていないことがわかります。
かわいいCGアニメにすれば良かったのに。
こんな体験は一生に一度でいいですよ。
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