ゲームシステム面でのレビューは前回したので、今回はシナリオを中心としたレビューです。ネタバレありますので、ご注意ください。
ネタバレなしの感想はこちら
- 小島秀夫ゲームに、たまたま縁がなかったのではなく、あえて遊ばなかった、ということを思い出した
- 小島秀夫、恐るべし
- メディアの言う「中だるみ」を感じなかった
- デス・ストランディングをこのまま映画にしたら酷評するかも……
- サムと人々の関係性
- BB‐28の意味
- デス・ストランディング現象について考察
- 僕のオチ予想について
- デス・ストランディング2はあるか?
- 総評
小島秀夫ゲームに、たまたま縁がなかったのではなく、あえて遊ばなかった、ということを思い出した
これまで小島秀夫氏の関わったゲームの体験版をプレイする程度で、購入までは至らなかった。デス・ストランディングをプレイするまで、たまたま縁がなかっただけだと言っていたが、実は明確に避けていたことを思い出した。
追記:すみません、ぼくらの太陽をプレイしていました。
その状態に至ったエピソードは、とても些細なことで、僕の記憶違いでなければ、昔「ジェノサイド」と言う小説の帯の推薦文を小島秀夫氏が書いていて、そこには「一級品のエンターテイメントがここにある」みたいな一文が添えられていた。
- 作者: 高野和明
- 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
- 発売日: 2011/03/30
- メディア: 単行本
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何が僕に癪に障ったかというと、この本は人間の進化にまつわるSFなのだが(最後までデス・ストランディングをプレイした人なら「おっ!」ってなるはずだ)、小説の題にあるように、アフリカでは少数民族が民族浄化(ジェノサイド)される凄惨な現実がある。小説自体はフィクションながら、遠く離れた場所の現実でもある。それを世界を代表するクリエーターが、無遠慮に「一級品のエンターテイメント」と言い放つなんて、なんて想像力の欠いた人なんだろう、と僕は思ったのだ。ゲームが凶悪犯罪の根源と言う責任転嫁に勢いつけているんじゃないか、と僕は思った。
デス・ストランディングをクリアした今、その印象は自分勝手な想像に過ぎないと言えるのだが、こうして一方的に切ってしまった縁が繋がったことが、作品のテーマと照らし合わせてしまって、なんだか感慨深い気持ちになった。
小島秀夫、恐るべし
自分がこの作品で最も感動したのが、小島秀夫氏の卓越したディレクション能力だ。
独立後間もなく、資金も人材も限られている中で、実験的な小規模作品ではなく、AAAタイトルと断言しても良い規模の、付け加えて全く新しいジャンルに挑戦し、延期などせず見事に完成せしめたことは、奇跡のように感じる。
デス・ストランディングをプレイすれば、その秘密が、舞台設定にあることが理解できる。外の世界は時雨によって、ありとあらゆる物が高速に朽ちていく世界なので、生き物も建物もほとんど存在しない。街の人もシェルターの奥に引っ込んでいて設定上は数万人いても、ゲームのデータとしては存在しないに等しい。作らなくても良いのだ。
限られたリソースを逆手にとって、作家性の強く、完成度の高い作品に仕上げた。
個人的に、ゲームに有名俳優を起用することは、否定的だ。俳優起用によってゲームが面白くなることは少ないと思う。どちらかと言えば、プロモーションの話になってくる。映画の吹き替えに、関心を集めるために棒読みセリフのアイドルを起用するのと同じ。そのお金を肝心のゲームにつかった方が面白くなるに違いない、という考えだ。
デス・ストランディングにおいては、ゲーム内容について、スター俳優起用による不備を最後まで見つけることができなかった。目立つバグも遭遇しなかった。キャラクターたち全員に親しみを感じたし(ダイハードマンだけ、なんかフェイシャルトラッキングがぎこちなかったような?)、おそらく映画ファンの小島秀夫氏の創作意欲を存分にかきたてたに違いない。
メディアの言う「中だるみ」を感じなかった
約60時間でクリアした。
途中、楽しすぎて、終わらせるのがもったいないと思ってしまったが、次やるゲームの発売日に向けて、巻いてクリアしてしまった。
今は、満足感と同時にーー認めるのに苦労したけどーー不満も同居していて、クリア後の世界を回ろうとは思っていない。
序盤、これでもかと意味深な伏線や謎が張られる。中盤は輸送がメインで、ストーリーの進行は非常にゆったりしている。この部分で、たしかに人によっては中だるみを感じるかもしれない。
僕の場合は、この間、話の行く末を予想し、込められた暗喩を読み解く時間だった。それは、ゲームをプレイしていない時間さえも豊かにした。「このゲームがどんなゲームなのか、思考するゲームはもう始まっている」と小島秀夫氏は言ったけど、ゲームが発売してからも、デス・ストランディングにまつわる謎は、僕を楽しませた。
デス・ストランディングをこのまま映画にしたら酷評するかも……
自分は、キャラクターについて、予備知識をほとんど入れずにプレイしたので、フラジャイルやママーの決断や、デットマンの出自、ハートマンの過去などは、とても驚いたし、感動した。
しかし、後半につれて、プロットは支離滅裂になっていったような印象だ。サムのビーチに閉じ込められ、エンドクレジットが流れても続くストーリー。最初は「まだ続きがある!」と喜ぶものの、最後は「まだやるのか?」と半ば呆れた。映画愛とサービス精神の賜物だと思うが、映画で名作とされる作品のもつ美しい物語のたたみ方では無かった。前半ですらカットシーンを冗長と感じたなら、後半はもっと地獄だろう。
ゲームという長丁場の後半、伏線が回収されるカタルシス、名場面に胸を熱くして恍惚と天にも昇る瞬間と、強い印象を残すためだけの、飛び道具のような、浮ついた演出に、「こんなに素晴らしい作品を台無しにしないでくれ!」と心が張り裂けそうになってしまう瞬間が、交互に訪れた。
シナリオの不満点は、人と人を繋ぐという普遍的な、大事なテーマから離れ、なぜか物語の最後はサムの個人的な出自へと迫るという、別のものに転じたことだ。どうして最後のエピソードにサムの出自を明らかにしたのだろう? サムはダイハードマンの涙の独白に、どういう気持ちで聞いていたんだろう? 僕らはサムほどカンが悪くないぞ。
この流れのせいで、アメリ/ブリジットがイイヤツかのか悪いやつなのかわかりにくくなってしまっていないだろうか? ジキルとハイドのような一貫性が欲しかった。サムがどういう気持ちなのか理解しにくい。クリフはめちゃくちゃカッコいいし、良いエピソードだったが、別に次回作にとっておいても良かったように思うのだ。
クリフの腹の十字傷が現れた時、サムも元々死者、あるいは帰還者に現れる印なのだ、と想像した。サムもまた、クリフと同じ経験をしたのだと。まさか血縁関係を匂わせるためだったとは。
謎なのは、どうしてサムは伝説の運び屋なのだろう? 具体的なエピソードが示されるはずと思っていたし、それと絡めてクリフとの関係性を語ることができたはずだ。
個人的に、サムが誰の子供であろうと、作品のテーマには大きな変化をもたらさないと感じた。
デス・ストランディングが映画じゃなくて、本当に良かったと思う。きっと映画ではカットされてしまうであろう、荷物運びのゲームプレイ部分が、僕の気持ちを整理して慰めてくれた。
この作品がとても気に入ったからこそ、この感想を最初は認めたくなかった。今でも、アリとナシの気持ちが消化不良で、ゲームに復帰できていない。
サムと人々の関係性
世の中のゲームには、他者との関係を断つ「棒」のゲームが多すぎて、他者とを繋ぐ「縄」のゲームが少ないと、それがデス・ストランディングを作る動機だったと小島秀夫氏は語っていた。
そんな縄のゲームの主人公のサムは、自ら人とのつながりを絶ち、接触恐怖症を患い、母とのつながりを示すヘソがない。たとえ能力者であっても無謀な外の世界を「一人が好きだ」と言って闊歩する人間だ。一方で、街と街、人と人を繋ぐポーターという仕事を選んでいるので、完全に他者を拒んでいる理由でもなさそうだ。
街の人はというと、極限の旅をしてきたサムに対して、ホログラムを介してしか会おうとしない。これは前述の制作上のリソースの問題なのかもしれないけれど、自分はちょっと違うと思った。
思い出して欲しい。カイラル通信によるホログラムは、デットマンやハートマン、アメリがそうであったように、まるで本人がそこに居たかのような存在感がある。対して、配送センターやプレッパーズのホログラムは、不自然なほどノイズが乗ったものになる。これは、おそらくゲームの仕様上のものではなく、相手に「これはホログラムだ」と明示するためのUXなのだ。例えるなら、電気自動車におけるエンジン音みたいなものである。
接触恐怖症のサムと同じく、人々も表面上はフレンドリーな態度をとっていても、外の世界への強烈な恐怖や他者との接触を極端に恐れている。ホログラムとして、貴方と応対しています、と示すことは、この世界の人にとって、マナーなのかもしれない。
この異様な状況は、この時代の人々にとっては当たり前なのかもしれない。きっとスマホがない時代に、同じテーブルに座ってそれぞれの携帯に夢中な我々だって異様に映るはずだ。
デス・ストランディングには、バトル要素もある。しかし、本来他者の断絶を意味する「棒」の要素すら、誰かとの絆の持ち方の一つではないか? と思えてくる。
ゲームシステム上、殺人をできないようにするのではなく、ネクローシス化と言う設定によって、殺人を避けさせる、BTのへその緒を断って、てきから「いいね」されるとか、なかなか独特の体験だった。
BB‐28の意味
サムの相棒であるブリッジベイビーは、生と死の狭間の存在で、BTを感知する能力を持つ。ゲームシステム上不可欠な存在であり、一人旅のプレイヤーの孤独を癒やす存在でもあり、シナリオ面でもサムの出自をミスリードする存在だ。
識別番号28は、大友克洋の漫画「アキラ」に登場するアキラ(28号)から取られたものだろう。別のBBはマンハッタンでヴォイドアウトという大爆発を起こした。アキラ少年もまた、制御不能で大爆発を起こす。
途中から、サムは金田、ヒッグスは鉄雄という感覚だった。そんな訳で、BBが彼女と知ってめちゃくちゃ驚いた。
サムが今まで築き上げてきた仲間との絆を断ち切り、世捨て人としてルーと共に生きると言う決断、これはちょっとすごいラストだと思った。
デス・ストランディング現象について考察
当初、生と死の境が曖昧になることで、死者が現世に座礁し、生者を飲み込むことで対消滅を起こすということしかわかっていなかった。
ストーリーが進むとデス・ストランディングは、過去の大量絶滅期にも起こっていたことがわかる。
その中でカイラル汚染というのは、考古学のファラオの呪いの原因だったのかもと妄想した。
デス・ストランディングが始まると、周囲はタール状の液体が染み出し、過去の建物や車などの遺構が再現される。これは時間を超越した場所であるビーチにある過去を再現したもの。魚やカニが浮いたタールの海は、タンカーが座礁して原油が漏れた状態のよう。原油は太古の生物の死体から生成されるようだが、その生成過程は謎に包まれている。ファンタジーと現実が曖昧にミックスされている設定が面白い。
完全な無に終わるはずだったビッグバンの失敗に対して、デス・ストランディングは、その完遂のための現象だった。しかし、種の生存本能が為せる技なのか絶滅体という存在が生まれたことで、絶滅を自ら促すことによって別の種へと進化を選ぶ。消滅を回避し、ゆるやかな絶滅をビーチで見守るのも悲しいし、一瞬の絶滅によって次の世代へ託すというのがアメリ/ブリジッドも目的だった訳だ。あれ? この理解合ってる? ええーと?? ここが大事なのに、なんだかよくわからないのも困った問題なのだ。
時雨という現象によって、建物が風化し、人間は老化してしまう。御存知の通り、進化には時間がかかる。虫やウイルスはその短いライフサイクルのおかげで、急激な進化を遂げる。時雨は、単なる自然現象ではなく、生物の進化を早めようとする何者かの意思によるものに思えた。
僕のオチ予想について
実は死者の世界がサムの世界だった、と言うオチを考えて、BBが生者の世界に生まれ落ちて完結というのを想像したんだけど、見事に外してしまった。
しかし、マリオとピーチ姫というくだりが出てきたのは本当に驚いた!!
あと、絶対あると思っていて、無くて驚いたのは、膨大に集まった「いいね」を使った演出。「オラに元気を分けてくれ!」的な元気玉演出で、ラストストランディングを回避したり、サムがビーチから生還したりする展開はあると思っていたんだが……。ハートマンがビーチへ行ってる間のちょっとした遊びのように、あの退屈なサムのビーチの放浪シーンも何かしら仕掛けがあれば良かったとは思わないか?
デス・ストランディング2はあるか?
自分は可能性は高いと思う。
デス・ストランディング現象は完全に解明されていないし、絶滅は避けられていない。猶予を得ただけだ。問題は解決されていない。
たとえば、アメリカ以外の国を舞台にしても面白そう。カイラル通信網がつながると、過去の時代も再現されるので、劇中に示されるビッグ5の時代が蘇ってくるとか、そういうのも有りかもしれない。
総評
新規プロダクション、新規IPとして、破格の完成度と、後に「デス・ストランディングゲー」と言われるようなフォロワーを生み出すであろう新ジャンル開拓を成し遂げた。
一方で、演出面とシナリオ面においての完成度は今ひとつに感じた。デスストランディングの謎に惹かれた僕にとって、劇中に科学者達がトンデモ理論を展開するのを「な、なんだってー!」と茶化したい気持ちになった。もっとプレイヤーを信じて、「ご想像におまかせします」の部分が多くても良かったかも知れない。シナリオについては、今後発売される小説版でも評価したい。
ゲーム内に登場する数々のガジェットなどのコンセプトアートは素晴らしいので、アートオブデス・ストランディングも購入予定。
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