滋賀県信楽にあるミホ・ミュージアムの若冲と蕪村展に行ってきました。
期間は8月30日まで、月曜は閉館日です。
◯若冲と蕪村について
伊藤若冲と与謝蕪村は、同じ年に生まれた江戸時代を代表する絵師です。
20年あまりに渡ってお互いが、京都の眼と鼻の先に暮らしていましたが、共通する友人、二人の絵に賛を贈る著名人がいる中で、二人に直接交流があったという史実はいまのところ見つかっていません。
ご近所すぎて、手紙などにも登場しないほど仲が良かったとする説や、お互いが当時を代表する絵師として意識しあうが故に、無視を決め込んでいたという説もあるようで、その点も謎めいていて、面白いですね。
◯ミホ・ミュージアムについて
私設美術館としては類を見ないほどの収蔵品を誇る施設ですが、施設そのものも凄いのです。
設計は、ルーブル美術館の改修を手掛け、あのガラスのピラミッドを設計したイオ・ミン・ペイさんです。
Appleファンとしても馴染みのある建築家で、スティーブ・ジョブズが独身時代に、こだわるあまりに、ほぼ唯一の家具はピアノで、ほとんど住むことなく、U2のボノさんに売ったと言う、あのアパートメントを改修した人ですね。
施設そのものは、チケット売り場とレストラン、ミュージアムショップが集まったレセプション棟と、本体の美術館棟に分かれています。
これが、レセプション棟。
チケットを購入し、美術館棟への長いアプローチ。
徒歩で数分。電気自動車のバスも運行しています。
見えてくるのは、なんとトンネル。
美術館棟へ向うためだけに掘られたトンネルです。
ミホ・ミュージアムは桃源郷をイメージして作られたそうで、トンネルは現世と桃源郷を分かつ装置として設計されたようです。
この圧倒的なスケール感。
「千と千尋の神隠し」は、ここから着想を得たのでしょうね(大嘘)。
トンネルの中は、ひんやりとしていて、反響音もしないので、それだけで隔絶した感覚がします。
温度はともかく、反響音がしない秘密は、トンネルの内壁のステンレスパネルに開いた穴のためです。間接照明と相まって、無重力な感じがします。
しかも、このトンネルはゆるーくカーブしています。
トンネルの先が見えないので、この先どんな風景が待っているのか、よりワクワクさせる趣向となっているですが、直線で掘るより、カーブさせるほうが建設費が嵩むのは、当然ですよね。
でも、ここをケチるくらいなら、こんな壮大なアプローチは必要ありません。
コダワリが凄いです。
トンネルを抜けると、さらに橋です。
橋の対岸にガラスの屋根の架かった美術館が見えます。
トンネルに橋。これだけで普通の美術館を建てるには十分お釣りが来るはず。
最高のロケーションと演出です。これだけでも一見の価値あり。
和風のような、中国風のような不思議なエントランスへ向かいます
イオ・ミン・ペイさんは、中国系アメリカ人ですね。
照明は、行灯のような、障子紙のような感じ。
階段の蹴り上げの高さも独特。すごく低いです。
美術館棟入り口。
入って直ぐこの景色。
美術館は、周囲の自然景観を壊さないように、80%地中に埋められる形になっています。地下への建設は地上の建設費の3倍以上かかると言われているので……。
こちらの松は移されたものだそうです。
遠くに施設。
ミホ・ミュージアムって母体が宗教法人なんですよね。
最初は、宗教って儲かるんだなぁ、くらいに思ってましたが、ここまでやれるなら、宗教って美術の世界でも意味あると思いました。
公共施設では、すくなくとも日本では無理だと思いますもの。
屋根は金属製のトラス造。幾何学的で未来感漂います。
施設内に植林があり、なんだか宇宙施設のような趣き。
巨木のベンチ。
モザイク画。
これは撮影可。地面に埋まっています。横着して踏んでしまいそう。
これも紀元前のモノかな?
若冲と蕪村展の展示室へ。
展示室前の中庭。
◯若冲と蕪村展について
その後購入した図録をみると、展示されていないものが多いことに気づきました。
この展示会は全国巡業中で、展示スペースや貸出期間の都合で、展示されなかったのかもしれませんね。
ミホ・ミュージアムそのものと、常設展示も良かったので、不満はありませんでした。
◯若冲について
2000年くらいから、日本では若い層にも若冲が凄くブームになった感じがするのですが、僕もブルータスなんかの雑誌の若冲特集で、極色彩と迫真の描画、奇想の技法にハマってしまったクチです。
今回の個展で、若冲のアバンギャルドな絵にも、過去の偉大な画家の絵や、中国の絵などのルーツがあることを知りました。中には、若冲以上に細かな描画をしていたり、鶴亭の屏風のように、余白の取り方に、より緊張感のあるものも展示されていました。
細かな描画については、若冲のものは真に迫る部分が凄いと僕は感じました。こういうと有り難みがないかもしれませんが、写真を元にフォトショップで加工したかのように、無駄な部分がないように感じます。他の画家の写実的な絵というのは、どこか自分の技法を誇るような、過剰な部分があるように思うのですよね。そこが個性や良さなんですが、若冲の場合はその部分がないことが個性として光ってるように思いました。
◯蕪村について
若冲も蕪村も、当時主流だった狩野派や琳派とは異なる独自の画家として扱われていますが、若冲は絵を始めるにあたって狩野派の絵師に師事したことから、その影響はあるのだと思います。対して、蕪村はまったくの我流で絵の技術を磨いたそうです。蕪村も中国の絵をお手本にしていたそうですが。
今回の個展で、若冲のおまけ的に個人的には見ていたのですが、とても良かったです。愛嬌あって自由奔放なタッチで、現代の漫画に通じるようなユニークな人物描画をしているかと思えば、高価な絵の具をつかった極色彩の絵の時は流れるような精緻な筆運び。山水画に至っては、樹木の種類や岩山の配置によって筆のタッチは変幻自在で目眩がします。
◯常設展示について
国ごとに小さな展示室を設けています。
面白かったのは、アフガニスタンなどの中東の仏像です。たぶん、向こうに残っていたら、破壊されていたのではないかなどと思いつつ、日本の仏像にはない写実的な造形をみました。
あとは前漢時代の中国のコレクションも美しかったです。青銅器に金で模様が付けられているのですが、本当に紀元前のモノなのだろうか、と疑うほどの細やかさでした。
◯購入したもの
図録とクリアファイル。クリアファイルはA4がサイズが欲しかったのですが……升目描きに感動したので購入。
図録は凄く分厚くて、収録されている絵も多いので、買って損はなし!
それと、美術館棟の1階のミュージアムショップ(ミホ・ミュージアムにはミュージアムショップが全部で3つある)に販売されていた、信楽の陶芸家前川幸市さんのネコとイヌを購入。
大きなゾウが凄くよかったのですが、高額だったため、購入断念。
写真だけでも、と思いましたが、店員さんに聞いたらNGだったので、それも断念。
ブログを見たら、作品の取り扱いは若冲と蕪村展の期間中だけみたいです。
こちらでも扱いありますが、高額作品が中心みたいですね。
あ、あと天然酵母のバジルソースパン買いました。美味かったです。
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