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天気の子の感想‐まるで僕のためにつくられた映画のようだ

雨が降っていたし、時間もあったので、天気の子を見てきました。「君の名は。」も良かったですし。

smoglog.hatenablog.com君の名は。は、面白かったけど、冷静に「これは流行って当然だ」判断している自分がいました。ありふれた恋愛に、忘れてしまったロマンチックな理由があるかもしれないと連想できるということ。対して、天気の子の主人公である穂高は、閉鎖的な離島への暮らしに嫌気が指し、自分の無力さを思い知りつつも、東京へと飛び出した16歳です。

ちょっと恥ずかしいけど、自分も同じような経験があって、彼に共感してしまいました。

ネタバレありの感想となります。

僕の場合は、夏美の年齢に近いかもしれません。映画の感想なのに自分語りになってしまいますが、当時、大学を卒業して一年間専門学校にかよってインテリア・デザインを学んだ僕は、今ではどうかしてるぜ、恥ずかしい限りと思うのですが、本気で「世界を変えられる」人間だと根拠のない自信があり、就職活動で世界的なコンペで競っているような有名建築家の事務所にポートフォリオ(自己PR用の作品集のような冊子)を送りつけ、一週間東京にいるので、この才能を放置せずに連絡すべし、みたいなことをしました。当時を思い返すと、うずくまって身悶えして奇声を上げたくなるんですが、これが若さってやつさ。ぎえぇえええーーーッ! 

結果はもちろん、漫画喫茶で待てど暮らせど電話もなかったし、本当に何もなかった……それ以上に残念なことに、銃も拾わなかったし、女の子にハンバーガーも奢ってもらうことも無かったです。

東京遠征のあと、自分は現実をやっと思い知るわけですが、一方であのころの妙なパワーのまま突っ走っていたら、どうなったんだろう? と思いを巡らしてしまうこともあります。たぶん、映画の登場人物のように、まわりにすごく迷惑をかけたかもしれないけれど、今の僕とは違うかもしれませんが、なんとか暮らしているんじゃないでしょうか……。

こういう背景があったので、話の冒頭で顔に傷をつけた穂高に対して、あの傷は両親とやりあったのかな? などと思えてきました。自分の場合は、殴られることはなかったけど、大学のお金が無駄になったとかよく言われました。

 

もうボーイミーツガール物語の主人公になれるような年齢ではとっくになくなってしまいました。僕のような人種は、あのころに戻りたいとかいう感情はおこらず、むしろ黒歴史化して大人で良かったなんて思います。

日本の現実世界も虚構世界も、若さを賛美しすぎな気がするんです。大人になることは汚くて厳しい世界へ行くことだと言ってるような気がします。ライ麦畑でつかまえて、かよ(そういえば、満喫のシーンのカップ麺の蓋に重しは、この本でした)。

この映画では、穂高と陽菜は無力な子供、圭介は現実を知った大人、夏美はその中間という描かれ方をしていますが、どんな年代にも、乗り越える課題があり、ひとしく素晴らしいんだというメッセージが込められている気がします。

 

 

シナリオは登場人物の気持ちが上り調子なときも、美麗なビジュアルの影で、常に不穏な空気が漂います。得体のしれない異物の銃の存在、占い師の言葉。

君の名は。と違い、解決のための伏線がひとつもないので、最後の最後まで、どんなに美しい晴れ間のシーンも、初々しいロマンスのシーンがあったとしても、心の中を締めるのは不安な気持ちです。ハッピーエンドを迎えるのに、拍子抜けする、ギミックが足らないという印象もありましたが、今回のテーマはそこではないのだろうと思いました。

脚本と演出は凄かったと思います。創作活動って、恥を忍んで自分を曝け出す行為だと思いますが、ここは流石にブレーキ踏むだろってシーンも、予想に反して猛スピードで突っ切って行くので、見てるこっちが赤面してしまいます。銃を撃つシーンとか、路上を走るシーンとか。

 

日本にはかつて、ハレの日とケの日がありました。ケの日は日常であり、ハレの日は特別な日のことです。ハレの日には特別な食事をとり、祭り事をしました。祭りとは政であり、かつては国家運営にも関わるような重大な行事でした。僕の地元では、集落の人間が駆り出されて祭りの準備をします。めんどくさいなーって思うんですけど、じっちゃんばっちゃんの話を聞くと、その形式や供え物にはきちんとした謂れや意味があります。そういう民間伝承は、「めんどくさいなー」によって失われていっています。おそらく東京はもっと急速に失われていて、ビルの屋上に雨乞い(晴れ女)の社があることもそういう流れにあるんだと思います。前作に続き、民俗をモチーフにしているのは、今後も続きそう。失われていくものがここで受け継がれていくだけでも意義はあります。

 

汚い大人としては、映像の中に企業ロゴがやたらと登場したのが目に付きました。スポンサーなんでしょうかね? 制作費を稼ぐ目的としては上手なやり方なのかもしれませんが、ちょっと多かったな。歌詞入りのBGMも多かったので、君の名は。が売れて、ヨイショしてもらいたいって気持ちがちょっと透けて見えてしまいました。歌詞はちゃんとシナリオに沿ってると思いましたが、多すぎる。追記:フーゾクの宣伝カーのシーンとか考えると、日常感を出したかったのかもしれません。

 

前作の主人公たちもチラッと登場していましたね。この部分は、純粋なファンサービスなんだと思いました。

 

陽菜のご飯、特に焼き飯は、ラピュタの目玉焼きパン以来の印象的なアニメ飯でした。

 

声の吹き替えについては、穂高には光る物を感じたんですが、全体的にアニメ向けではなく、声の解像度が低くて聞き取りづらく、今良いシーンなので字幕お願い! という場面がありました。

 

 

小説 天気の子 (角川文庫)

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天気の子

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新海誠監督作品 天気の子 公式ビジュアルガイド

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