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書評:三体 - 現代中国SF小説の金字塔

激烈おすすめです! 読みだしたら止まらない!!

三体は、中華人民共和国のSF作家劉慈欣の長編SF小説。著者は、発電所のコンピュータ管理が本職のエンジニアだそうです。

本作は「地球往事」三部作の第一作(『三体』三部作ともいう)です。英語版にはすでに翻訳されており、SFにおいてもっとも権威のあるヒューゴ賞を受賞。受賞は、アジア圏初、英語以外で書かれた作品も初と、とんでもない快挙を果たしました。名だたる著名人も愛読者であることを明かしており、オバマ元大統領もその一人。

日本語翻訳前から大変注目されていて、そして前評判通りの面白さでした!

最初の文革の部分がダルいと聞いていたのですが、読みやすい文章のおかげか、自分はまったく引っかかることなく、知識層が処刑されていく当時の凄惨な状況、続く現代中国の異質さを目の辺りにしすることができ、大変勉強になりました。

あとがき部分で解説されているのですが、最初がシンドイという方は、中国語版の章構成で読むと良いそうです。実は英語版(とその章構成を準拠した日本語版)とは違い、オリジナルの中国語版は、政府の検閲を恐れて、現代パートから始める構成で、英語版の翻訳者によると、そのほうがエンターテイメントとしては読みやすいそうです。こういう部分も中国らしくて、興味深いですね。

 

あらすじ。

物理学者の父を文化大革命で惨殺され、人類に絶望した中国人エリート女性科学者・葉文潔(イエ・ウェンジエ)。

失意の日々を過ごす彼女は、ある日、巨大パラボラアンテナを備える謎めいた軍事基地にスカウトされる。そこでは、人類の運命を左右するかもしれないプロジェクトが、極秘裏に進行していた。

 

数十年後。ナノテク素材の研究者・汪淼(ワン・ミャオ)は、ある会議に招集され、世界的な科学者が次々に自殺している事実を告げられる。その陰に見え隠れする学術団体〈科学フロンティア〉への潜入を引き受けた彼を、科学的にありえない怪現象〈ゴースト・カウントダウン〉が襲う。そして汪淼が入り込む、三つの太陽を持つ異星を舞台にしたVRゲーム『三体』の驚くべき真実とは?

中国が舞台となるSFというだけでも面白そうなのに、数々の科学理論、VRゲーム、秘密結社などの要素と伏線が綿密に絡み合って行きます。

 

この小説は中国でも大ブームなんですが、僕の目に映るのは、中国という国の異質さのヒントが隠されている気がするのです。緑化交付金を使って大地をペンキで緑に染め上げ、中国高速鉄道が脱線事故をおこしたら身元確認もせずに被害者を埋め、国家主席をくまのプーさんと揶揄するだけで投獄され発禁になる……その国なりの平和と国家運営があり、それを良い悪いと僕は言えないんですが、我々の感覚からすると異常な中国。それはおそらく、文化革命の影響を未だにあるのではないでしょうか。

 

役者は、中国語版を元に忠実に翻訳したとしますが、自分は気になってる一文があって、それは本文中の地の文に、「ジプシーの天幕の中ような(だったと思う)」という表現が出てきます。ジプシーというのは、現代ではロマと言うべきで、れっきとした差別表現・放送禁止用語です。ロマが馴染みなくても、遊牧民の……でも意味としては通じる。訳者が無知さから使用し、発行者も見逃したとは思えないので、おそらく中国人である著者の文のままだと思います。この地の文は第三人称ですが、メインキャラのワン・ミャオが、秘密の施設に、どこか差別されそうな危うさを感じたのを表現したかったのだと思います。差別表現を平然と使ってくる部分で、すでに日本と違う文化圏なんだと強く感じましたし、僕には味方側のワン・ミャオが良い奴とは最後まで思えませんでした。史のアニキも、初登場時から嫌なヤツとは思いませんでしたし、登場人物の全員をフラットな見方にできた、と言いますか。この感じは三体独特の読み方になりました。

 

あらすじにある通りに、この小説にはVRゲームが登場します。このゲームには非常にユニークな世界が描かれていて、僕が異常と思ってる中国もまた異常な文化圏とのコンタクトをするというシナリオがすごく面白いのです。ゲーマーでもある自分としては、レディ・プレイヤー・ワンと同じく、ゲーマーの底力と異常さを図り違えていないか? と疑問視する部分もありますが……。

 

この小説に魅力を語ろうとすればするほどネタバレになってしまうのに、語らねば良さが伝えられないというタイプの小説です。SFの枠にとどまらない、非常に意味のある作品です。会う人には面白いっす、と紹介するんだけど、読んだ人と未だ話せてません……。

 

三体は、前述のとおり三部作の第一部となります。実はすでに三部作は完結していますが、日本語翻訳はまだ完了していません。二部は三体の1.5倍、三部は二倍のボリュームとなっており、出来栄えも三体に勝るとも劣らないとか。2020年発売予定の第二部「三体II:黒暗森林」が待ち遠しいです!

 

Kindle版がちょっと安いです。

三体

三体

  • 作者: 劉慈欣,立原透耶,大森望,光吉さくら,ワンチャイ
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2019/07/04
  • メディア: 単行本
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