Audible（オーディブル）というAmazonのオーディオブックサービスをこちらの記事にて知りました。
Audibleのサービスには、月額1500円の会員制があります。
これは、30日間無料で試すことができます。
月額課金制ですが、キンドルアンリミテッドのように読み放題ではなく、毎月本一冊がダウンロードできるコインが1枚配布されます。
無料期間中に解約しても、ダウンロードした本は残るので、実質タダで一冊本が聞けることになります。
コインで払う以外に、別途現金購入も可能ですが、オーディオブックの価格は1冊3000とか3500円とかするので（会員は30％OFF）、コインで支払うより割高ではあります……が、第一線で活躍中の俳優さんや声優さんが朗読していて、ボリューム的には10時間とかあるので、コストが掛かってるのは確かです。
自分が無料期間中に落としたのは カズオ・イシグロ著「日の名残り」です。
ブッカー賞、ノーベル文学賞受賞作家ですね。
カズオ・イシグロの本は唯一「わたしを離さないで」を読んだことがあるのですが、それよりずっと好きな話でした。「わたしを離さないで」は「1984」の感想と同じで「こんな世界、ナンセンスだ」って感情が制御できなかったです。
舞台はイギリス。第二次世界大戦が終戦して間もない時代が変わる過渡期です。
主人公は由緒正しい大邸宅の管理を任された執事です。かつて歴史はここで作られた、と言って過言ではないほどの屋敷でしたが、前の主人の死後は、アメリカ人の富豪によって買い取られて、その栄華も過去の話になってしまいました。
時代が変わり、主人公も年老いて、昔はパーティーなどの大きな催しもあって、何十人というスタッフを陣頭指揮したものでしたが、今は自分を含めてたった4人で大きな邸宅を管理しなくてはならない状況です。なんとかやりくりしようとしたものの、人手不足は明らかです。
そんな折、新しい主人の提案で、アメリカへ一時帰国する間、車を貸すから2,3日外へ小旅行へでかけたらどうだ、と提案をうけます。
主人公は、結婚して辞めていった昔の同僚である女中頭のことを思い出し、彼女が復帰すれば人手不足は解消できるはずと考え、小旅行のついでに彼女に尋ねる目的を含めて、親切な主人の提案を受けることになるのです。
主人公の性格が人間味あふれて、とても良いです。
物凄く真面目で、仕事はできるのですが……実直すぎて要領が悪く、時に空回りしている姿が笑いを誘います。
車での旅行中、思い巡らすのは、自分の絶頂期だったころの邸宅の様子、口では尊敬しているという父との確執、女中頭との微妙な関係などの昔の思い出です。それが「日の名残り」なのでしょう。
彼が尊敬してやまない、善意と品格を備えた過去のご主人が、悪意によって利用され、世間の評価は最悪になり、やがて疎まれて死を迎えてしまう悲劇にみまわれます。彼はもう誤解を解こうとする努力すら放棄してしまって、自分の過去を隠してしまいます。独白から読み取れる彼のパーソナリティからは印象の異なる行動ですが、そうせざるを得ない気持ちがわかります。
女中頭との間には、恋愛感情があったようなのですが、具体的なエピソードとして描かれることはありません。当時は使用人の間でそれはタブーだったんでしょう。それでも想像に難くない。とても上品に描かれています。村上春樹の小説だったらこうはならないでしょう。たぶん、親切に部屋を貸してくれた農家の人妻すら手を出してるな。
最終章10章の、彼の感情の発露、タイトルにもつながるシチュエーション展開はクライマックスにふさわしい見どころです。
朗読は俳優の田辺誠一さんがされていますが、とても落ち着いた口調で聴きやすかったです。何人もいる男性登場人物のセリフまわしは、流石は本職の俳優。使い分けが達者でした。オーディオブック用の脚本ではないので、一部モノローグだと思ってたらセリフだったという箇所はありましたが。
10時間ものボリュームでしたが、仕事の行きと帰りの車中で、聞きました。
会員登録したものの、何を購入しようか悩まれているなら是非。
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